「立花聡の経営」カテゴリーアーカイブ

世界一の不幸者は、不幸の原因を他者に転嫁する者

 採用面接って面白い。

 立花 「あなたは、前職を辞めた理由は?」
 応募者 「学べるものがないし、雑務ばっかりやらされるし、チャンスにも恵まれませんでした」
 立花 「なるほど。では、当社に応募する理由は?」
 応募者 「新しい分野に挑戦し、学んでいきたい」
 私 「当社も雑務をやってもらいますよ。『学べるものがない』の繰り返しだけじゃないですか。チャンスもなければ、また次の会社を探すんですか?」
 応募者 「???」

 雑務とか何か、雑務に学べるものはないだろうか。上等な仕事ができない人間に限って、雑務を馬鹿にするのだ。学び方すら知らない人間に限って、学べるものがないと馬鹿をいうのだ。チャンスがすぐにそばに転がっていても見えない人間に限って、チャンスに恵まれないと愚痴をこぼすのだ。

 学歴もなく、貧困のどん底で雑務的な仕事を見つけて、辛うじて糊口を凌ぎながら、最底辺の仕事に学び、地獄から這い上がる人たち、もっとも不運な人たちに限って、自らチャンスを作り出し、自ら世界を切り開くのだ。

 人間はある程度、その器が決まって生まれてきたのかもしれない。だが、その器をまったく改造できないわけではない。後天的に、何らかのきっかけで物事の学び方を悟った時点で、チャンスが続々と訪れてくる。チャンスを拒むことなどできないのだ。

 一方では、不運や失敗、不幸の原因を他者に転嫁する人間は、どこにいっても失敗する。世の中一番の不幸者は、不幸の原因を他者に転嫁する人間。

 他者がたとえいくら悪者だとしても、他者をいくら罵ったとしても、自分の境遇は果たしてそれで改善されるのだろうか。ちっとも役に立たない。愚痴や罵りで一時的な慰めを得られたとしても、麻薬のように一瞬にしてその快楽が去ってしまうものだ。

 来る日も来る日も、その繰り返し。世の中、不運や不幸を感じる人間が大半だ。それが公平か、それとも不公平?神様に聞くが良い。

KLへ業務機能の集約統合、法順守と経営合理化

 中国で、Yahooもダメになったか。検索できなくなった。当社上海事務所からも報告された。

 サイバーセキュリティ法の実施によって、VPNへの規制も一層強化された。8月1日に、米アップルが中国の「アップストア」からVPNアプリを削除する決定を発表し、同社のティム・クックCEOは、「われわれとしても、できればアプリの削除はしたくない。しかし、他国同様、われわれは自分たちが事業を展開している国の法律に従わなければならない」との立場を表明した。

 当社のような調べ物の多い企業では、正直、仕事にならない。ただ、クック氏が述べた通り、どんな法律であれ、所在国の法律に従うことは企業コンプライアンスの基本である。したがって、当社の場合、一部の業務機能の海外移出はおそらく避けられない。

 中国での人件費の上昇や適材リクルートの困難も相まって、事情が複雑に絡んでいる。全体的に中国やベトナム、アジア業務の統合管理という経営戦略上の観点もあり、当社のクアラルンプール事務所にはこれから本格的に、中国・アジア統括事務所機能を付与すべく、ロードマップの作成に取り組む、とする方針を確定したい。

 激変の時代である。

今日の中国は、明日のベトナム

 ベトナムの人件費コスト上昇が止まらない。さらに、労働者を過剰保護する労働法制に起因する解雇難や、労働生産性の停滞といった負の要因と相まって、企業管理面の課題は山積。

 財務・労務・法務面において、唯一の解決策といえば、私が考案した「3階建人事制度」しかない、と自信をもって断言する。

 「今日の中国は、明日のベトナム」

 中国で60社に上る日系上場企業の導入実績で証明された「3階建人事制度」の威力は、ベトナムにおいても発揮されるべく、すでに在越日系企業における導入が始まった。

 6月のホーチミン・セミナーに続き、10月9日(月)午後、ハノイの日航ホテルで「3階建人事制度セミナー(ベトナム版)」を行う。「3階建人事制度」とはどのようなものか、なぜ必要か、それがどのように機能するか、その全貌とメカニズムを徹底解説する。

<予定主要内容>

● ベトナム経営現場の三大課題のメカニズム
  1. 賃上げと人件費コスト上昇の課題
  2. 無期限労働契約・終身雇用の課題
  3. 企業労働法務・人事労務制度の課題

● 「3階建人事制度」のメカニズム
  1. 制度の基本構造と概要
  2. 三大課題を如何に解決するか
  3. 現行制度の変更・新制度導入の諸課題

 是非、在越日系企業経営者の皆様のご参加をお待ちしております。

氷山か氷塊?ボンビーガールのマレーシア移住話

 8月29日に日本のTV番組「ボンビーガール、マレーシア移住特集」が放送されてから、私が発起人で主宰している「マレーシア移住の会」には新規参加者が急増している。
 
 「・・・(マレーシアは)物価が安いし、家賃3万円程でゴージャスなアパートに住めるし、なんか日本に住んでいるのがばかばかしくなる」「ボンビーガールを観てていつも考えているけど、本当にバンコクとかマレーシアに就職してバブリーな生活をするのもいい。考えてみようかな」

 ネットを検索したら、こういうブログ投稿もあったりする。いや、TVの宣伝効果はやはり大きい。ベトナム在住の友人は、「あれはストーリーありきの該当者募集です。少なくともベトナムの放送分は、放送後ベトナムで働きたいという問い合わせは人材紹介会社で増えたそうです」と、教えてくれた。

 まあ、人材紹介会社はだいぶ番組のおかげで商売が舞い込んだだろう。

 ベトナム編もマレーシア編も、私は直接に番組を観たわけではないので(観るつもりもない)、断定的なコメントを控えたいが、番組が取り上げた話は、やらせや作り話でない限り、真実であることは間違いないだろう。

 ただ、その真実は、氷山の一角なのか、それとも単たる氷塊の一粒かが問題だ。どれだけ代表性があるかということだ。言い換えれば、大方の人が番組に取り上げられたような事案をそのまま追体験できるか、あるいは番組事例の複製の可能性、それがどのくらいあるかということだ。

 特に海外番組の場合、現地コーディネーターのスタンスが番組の出来に決定的な役割を果たしていることも珍しくない。そこで彼らの情報ソースや知見、ないし利害関係が絡んでくると、番組の色も随分変わってきたりする。

 随分昔、私も日本のメディアの海外取材の協力で現地コーディネーターを引き受けたことがあった。現地のことについて取材クルーは基本的に何も知らない。現地コーディネーターの言いなりだった。

 こういう番組の裏事情を知った上で、番組を眺めていると、視聴者もずいぶん変わるだろう。メディアは信用できないとかいう人もいるが、「信じる」「信じない」というよりも、「懐疑」をもつことが大切だ。私の書いたこの記事にも、是非懐疑の目をもって接してほしい。

 情報氾濫の時代だ。情報そのものの価値が相対的に低下している。そのかわりに、情報の選択と処理がますます重要になる。自分自身にとってその情報は何を意味するか、その情報がもたらす潜在的リスクとは何か、そしてそこからどのような価値を生み出せるのか、この一連の論理的な思考作業が後続の結果に決定的な効用を果たす。

 情報は、諸刃の剣だ。

絶景求めて、中国人の結婚写真ロケは地の果てへ

 先日旅行中のこと。アイスランドの南海岸、観光名所のスコーガフォスの滝の前で、結婚写真撮影のロケが行われていた。よく見ると、案の定中国人カップルと中国人撮影業者。

 時は8月だが、北極圏手前のアイスランドでは、外気温度摂氏10度以下。海岸沿いの風が強く、滝の下は雨状態の水しぶきが降りかかり、体感温度をさらに低くしている。露出の多いウェイディングドレス姿の新婦を見ていると、こっちが思わずぶるぶるして鳥肌が立つ。

 一生一度の記念とはいえ、よくも耐えられるなあと感心する。周りの西洋人観光客も皆愕然として眺めていた。「風邪を引かないように」という日本人の挨拶がもっともふさわしい場面ではないかと痛感する。

 しかし、寒いのが新婦だけだろう。中国の結婚写真業はいまは、熱い。特に、このようないわゆる海外ロケーションフォトが特に人気を集めている。北はこのアイスランド、南は南極まで、全世界のあらゆる景観がロケ地になる。

 一時期流行っていたパリのエッフェル塔やハワイの海辺がもう古い。とにかく並の人間でなかなかいけないような辺境僻地ほど価値が上がる。その絶景写真で周りに自慢できるからだ。

 そして、撮影クルーも決まって中国人。現地で営業ライセンスをもっているかどうかも怪しいような個人業者も少数ではない。何せ国内業者が集客して現地在住の中国人に投げるわけだから、ビジネスモデルとして流動性が高く、当局はとても補足できない。

 華僑ビジネスのネットワークは恐ろしい。私が常にいっているように、「中国市場」でなく、「中国人市場」だ。市場は属地でなく、属人だ。これを理解しないと、中国ビジネスなどはできない。

 ・・・(以下略・ビジネスレポート使用)

高生産性とは?デンマークの空港運営事例

 北欧旅行の際、私はコペンハーゲン空港であることを見た。航空機のプッシュバック作業は、ワンマン(1人の作業員)で行われていた。一瞬自分の目を疑った。

 航空機が出発する際に、まずエプロンからプッシュバックする(機体を後退させて移動する)。日本の場合、通常この作業に係る作業員は2~3名。トーイングカーを運転するトーイングマン1名と、移動する機体と一緒に歩き状況を確認するウォッチマン1~2名という人員構成である。そして、プッシュバックを終了し、飛行機がタキシングを開始すると、作業員全員が整列し、航空機にお辞儀し、手を振るというお馴染の風景である。

 しかし、コペンハーゲン空港では、トーイングカーと航空機の連結・外し、安全確認、トーイングカーの運転等一連の作業はすべて、トーイングマン1人によって行われている(ボーイングB757機事例)。そのうえ、プッシュバックの速度が速い。もちろん航空機へのお辞儀もなければ、手を振ることもない。

 さらに、搭乗口のスタッフも、1人という完全ワンマン体制に徹底している。搭乗券のバーコード・タッチやスマホのモバイル搭乗、すべて乗客のセルフサービス。日本の場合、搭乗口は最低でも4~6名のスタッフがいる。お辞儀したり、ニコニコして挨拶したりする。そんなのはコペンハーゲン空港では、一切なし。

 チェックイン・カウンターはほぼ無人化している。少なくとも欧州内路線は基本的に、事前ウェブチェックインか空港内の搭乗券無人発行機(Kiosk)を利用しなければならない。バゲージドロップオフは少数を除いて、ほとんどの航空会社は、共通カウンターを使うことになっている。日本のようなカラフルな航空会社別のチェックインカウンターなどは存在しない。したがって、空港ターミナルはそれほど広くない。床面積の1平米当たりの生産性は非常に高い。

 総じて私が直観的な見積もりになるが、3人分の仕事があるとしよう。それが日本で5人でやっているのに対して、デンマークでは2人ないし1人で片付けている。管理会計に基づく高生産性運営に徹しているデンマークに学べることがあまりにも多い。

 もう1つは、消費者の教育水準も自助能力も非常に高い。基本的に業者に依存せず、自立・自律型の消費行動に徹している。これに対して、日本で善とされている「高品質・低価格」はまったく時代錯誤の馬鹿げた産物でしかあり得ない。高品質に低価格を求めると、かならず企業労働者にしわ寄せがくる。ブラック企業の温床にもなる。

 では、日本もデンマーク型の高生産性型経営を導入できるかというと、個別企業の単体ベースでは可能であろう。ただそれが社会に拡散浸透しようとすると、これに追い付かない低生産性労働者が直ちに負け組化し、顕在的失業や貧困階級の急増につながり、政治的にも国家ベースでの実現は現状を見る限り困難であろう。これは、日本が抱え込んでいる宿命である。

ビーチサンダルの察見力、旅は発見と内省の時間だ

 このビーチサンダル、どう見ても持ち帰りOKなアメニティグッズではない。

 アイスランド旅行中、ブルーラグーンの宿で温泉プールサイド用のものが客室に備え付けられている。それがえらく気に入った妻はほしいと言いだした。

 ダメだ。それはホテルの備品だと私が断ると、妻は「じゃ、ホテルフロントに聞いてきます」と諦めない。5分後部屋に戻ってきた妻は「フロントは、『It’s yours』と言ってくれましたよ」と得意げに。

 えっ、まさか。どうみても使い捨てとは思えない。「ほら、タグも付いてるでしょう。これ新品なんですよ」と、妻がビールサンダルの靴底に貼り付けられている商品タグを見せてくれた。さすが女性はそういうところ細かくみているなあ。

 妻の察見力には脱帽。経営コンサルタントとして、何事も固定概念にとらわれずに、観察に基づき事実を根拠に結論を導き出す。基本を忘れた私は赤面せずにいられない。大切なことに気づかせてくれた妻には感謝にまた感謝。

 旅は発見だけでなく、内省の時間でもある。故に価値がある。

グリーンランド(9)~疲労困憊、旅程のリスク管理を再考

<前回>

 カンゲルルススアーク空港で足止めを食らう。

 10時間の遅延。何があったのか。機体故障か。機体整備の部品の取り寄せで時間がかかるならやむを得ない。しかし、そうではない。前日の悪天候でグリーンランドの一部の地方で便のキャンセルがあって、その乗客たち(の乗継ぎ)を待つためにコペンハーゲン便の出発を遅らせたのだった。

カンゲルルススアーク空港で待機中

 グリーンランド航空は、大型ジェット機はエアバスA330型の1機しかもっていない。それはコペンハーゲン便にのみ使用されている。グリーンランド各地からプロペラ機で観光客をカンゲルルススアーク空港に送り込んで、そこでまとめてコペンハーゲンまでエアバス機で運ぶ、というシステムになっている。

 しかも、コペンハーゲン便は週3便しか飛んでいないので、乗継ぎできなかった乗客をカンゲルルススアークで最低2日滞留しなければならない。その乗客たちにコペンハーゲンより先さらなる乗継ぎ遅れが生じた場合、航空会社の補償は多額に上る。しかも、今のような夏季繁忙期だと、2日後のコペンハーゲン便も満席状態なので乗せられない可能性が高い。つまり事態は収拾できないほど拡大する。

 だから、何が何でも全員をこの飛行機に乗せる必要があるのだ。たとえ出発を10時間遅らせようと。そもそも航空会社は、10時間くらいの遅延を想定して、週3便という「余裕型」スケジュールを組んでいるのではないかとも疑わざるを得ない。そうならば、「確信犯」だ。

 グリーンランドという土地柄、ビジネス客は希少でほとんど観光客である。季節の影響が大きい。たとえばジェット機をもう1機追加投入した場合、年間の半分が寒冷期、つまり閑散期にあたり、搭乗率がガタ落ちして採算が取れなくなる。そのため機材追加投入の固定費をかけられない、というような事情があったのではないか。

 8月18日(金)、搭乗予定のグリーンランド航空GL780便、カンゲルルススアーク11時40分発が10時間以上も遅延したところ、果たして21時55分に飛んでくれるのだろうか。という大きなリスクを私が抱え込んでいる。航空会社の職員に再三確認しても、「必ず飛ばします」とかなり断定的な回答だった。

 飛ぶだろう。22時台に飛べないなら、10時間以上も待ち続けた乗客にホテル宿泊を提供しなければならない。グリーンランド現地の物価相場では、業者割引が効いても1室あたり最低150ドルから200ドルはする。航空会社にとって当該便の利益がほとんど食い潰される。

 さらに空港内併設のホテルのフロントに照会すると、当日午後現在はすべて満室だという。エアバスA330型1機の乗客数は250名前後、家族同室で計算しても最低100室が必要。だが、ホテルの部屋数は70室、しかもチェックアウト時刻の正午を過ぎても満室状態。つまり、GL780便の乗客を収容する余裕がまったくない。

 まあ、なんとか今夜中は飛ぶだろうと、私は職員の回答よりも、一連の推論を根拠に肯定的結論を得た。

 18時、空港ホテルのレストランでブッフェの夕食を食べ終えた頃、コペンハーゲン便の保安検査が始まった。21時35分、遅延予定時刻よりも20分早く、グリーンランド航空GL780便がカンゲルルススアーク空港を飛び立った。

 翌日8月19日(土)早朝5時45分、飛行機はコペンハーゲン・カストラップ国際空港に到着。予約しておいたクラリオン・コペンハーゲン・エアポートホテルにチェックインしたのは、朝7時。部屋はチェックアウトの12時まで5時間しか使えない。それでも貴重な5時間だ。簡単なメールチェック、次のタイ国際航空乗継便のウェブチェックインを済ませ、そして何よりも熱いシャワーを浴びてベッドに飛び込む。2時間だけでも睡眠を取ろう。

コペンハーゲン・カストラップ国際空港を出発

 8月19日(土) 午後14時25分、タイ国際航空TG951便はコペンハーゲン・カストラップ国際空港を定刻出発。機内食のランチを食べ終えたころ睡魔に襲われ、そのまま熟睡。

 早朝、スープの良い香りで目が覚めると、隣席の乗客がラーメンを食べていることに気付く。客室乗務員に聞いたら、リクエストあればインスタントラーメンを提供していると。早速トムヤムラーメンを注文。いやいや長旅途中の温かい汁物は旨いこと・・・。

 8月20日(日)、早朝5時45分、TG951便はバンコク・スワンナプーム国際空港に到着。2週間ぶりのアジア。ラウンジで休憩して、3度目の乗継ぎで朝9時5分発のタイ国際航空TG415便に乗り込む。正午過ぎ、クアラルンプールに帰着。

 2泊3日の移動。さすがに疲労困憊。何よりもグリーンランド航空遅延の1件で、大きな教訓を得る。今回は幸いにも10時間の遅延だけで無事乗継できたものの、リスクがこれで消えたわけではない。旅程を立てる際、深刻な遅延に備え、全面的なリスク管理が欠かせない。

 旅はやはり楽しい。知見を広げ、仕事上のヒントも得られる。

<終わり>

番外編(1)~ビーチサンダルの察見力、旅は発見と内省の時間だ
番外編(2)~高生産性とは?デンマークの空港運営事例
番外編(3)~絶景求めて、中国人の結婚写真ロケは地の果てへ
番外編(4)~少子化は好機、日本は高生産性自立型社会目指せ
番外編(5)~日本人よ頭冷やせ、真の高福祉国家とは何か
番外編(6)~サバイバルを美徳とせよ、トリクルダウン理論の真義

グリーンランド(7)~氷山の一角と氷山の転覆、哲学的示唆

<前回>

 8月17日(木)、グリーンランド西岸イルリサットの海から北上する船旅に出る。前夜から天気が崩れ出し、当日はあいにくの雨天、いやそうでなく、幸運にも雨天に恵まれる。

 まずは年間日数の3分の2が雨や雪のアイスランドでは、奇跡的にも前後が雨で滞在中の数日だけが快晴だった。グリーンランド到着後の氷河トレッキングも雨後の好天だった。今回の2週間という長旅中、たった1日だけの雨ということで文句を言ったら罰が当たる。

 「皆さんは幸運です。これがグリーンランドの本来の姿ですから」。ツアーガイドのティナーさんがやや興奮気味に語る。商売上のパフォーマンスなのかもしれないが、嘘ではない本当の一面もあるので、そのまま受け止めておきたい。

 船は出港してエキ氷河(Eqi Glacier)を目指して一路北上する。低く垂れ込めた厚い灰色の雲をバックに海がやや荒れ気味。海面に浮かぶ氷山は冷たい青灰色を呈し、怪しい透明感を帯びている。

 いや、「海面に浮かぶ」という表現は、単なる私の視覚による直観的な反映にすぎない。まさに、「氷山の一角」というだけにその氷山の9割が海面下に不可知の形で存在しているのである。

 専門家によると、氷山が氷棚から崩落したとき、周囲の環境と静力学的平衡が機能し、一般には氷山の10分の1が海面の上に残り、残りの10分の9は海面下に沈むという。氷は水面に浮かぶというわれわれの常識、そして肉眼の視覚による直観的写像に基づけば、ついつい「海面に浮かぶ氷山」という論理的誤謬に至る。

エキ氷河到着

 そして、さらなる変化が海面下で起きる。海中では氷山が溶け始める。要するに同じ氷山でも海面上の部分が空気、海面下の部分が海水という異なる外的変動要因をそれぞれ抱えているのだ。そこで、海面下の氷山が徐々に溶け始め、ある時点で全体的バランスが崩れ、氷山の上下が逆さまになるそうだ。

エキ氷河

 このいわゆる「氷山の転覆」現象はめったに目撃することができないので、あまり知られていないようだ。「氷山の一角」から本質的な部分に突っ込むと、水面下の変化の進行から、最終的に「氷山の転覆」という均衡の崩壊に至る全体像が浮かび上がる。

 これは哲学的な示唆であり、様々な事物に共通する基本原理として肝に銘じたい。

 昼、船はエキ氷河に到着。船上でランチを取り、1時間半ほどの停泊を経て帰路につく。夕方、イルリサットの小さな港に帰着したとき、小雨がまだ止んでいない。

<次回>

3つの選択肢、弱者向けのアンケート調査

 社会に強者と弱者の2つのグループが分かれているとして、そして弱者グループにアンケートを取る(強者に投票権なし)。以下3つの選択肢があるが、その中から1つだけ選びなさいと――。

 選択肢1、強者も弱者も引き続き存続し、弱者の生活は1段階だけ改善されるが、強者の生活は10段階も改善される。
 
 選択肢2、強者も弱者も引き続き存続し、どちらも何ら改善もされない。現状の強弱格差がそのまま残るだけ。

 選択肢3、強者が全滅する。ただし、弱者の生活は悪化に転じ、数段階かさらに落ちる。

 以上仮説とされる3つの選択肢は、実現の可能性を無視し、あるいは、神様が選択の結果(最多数票)を実現させてくれるとしよう。さらに第4の選択肢はなしとする。という前提でこのアンケートをいまの日本で取ってみた場合、結果はどうなるのだろうか。

<次回>