コンサートホールが危ない、マレーシアもテロに狙われている

 テロが頻発するなか、マレーシアもターゲットにされている。6月28日にクアラルンプール郊外のショッピングモール内で発生した手榴弾爆発事件を受け、国内では緊張が走っている。

 一連の事件で、だいぶ世間の注意力が飲食店に集中しているところ、私としては劇場に目を向けるべきだと考えている。なんといっても、クアラルンプール中心部の、あのペトロナス・ツインタワー内に位置するコンサートホールだ。

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 マレーシアの中心であって、世界に知られるランドマーク。これだけ影響が大きい。ただショッピングモールは出口が多く、万一テロ攻撃を受けても群衆の逃げ道が多い。そのうえ、ムスリム(イスラム教徒)も多数混在しているので、テロリストにとって分別アタックが容易ではない。

 そこで、あのコンサートホールだけは孤立する閉鎖空間になっている。観客の出入り口は後方の2箇所しかない(後は楽屋等の通用口になるが)。限られた出入り口さえ封鎖制圧すれば、脱出する逃げ道はない。さらにコンサート等イベント開催中に、大量の人が劇場内に閉じ込められるため、殺傷力が大きく、被害が甚大となる可能性が高い。

 さらに、肝心なことだが、コンサートホールの観客は、私が観察する限り90~95%以上が非ムスリム(非イスラム教徒)、欧米人も多い。イスラム原理系テロにとって都合が良い。そのうえ、演奏曲目も西洋クラシック音楽であって、たびたびキリスト教色の濃いものも演奏されるので、「反イスラムな施設」として位置付けられれば、攻撃の「大義名分」が得られる。

 劇場テロの前例として、モスクワ劇場占拠事件を想起する。2002年10月23日、42名の武装勢力は、モスクワ中央部にある劇場「ドブロフカ・ミュージアム」で観客922名を人質に取り、第二次チェチェン紛争により進駐してきたロシア連邦軍のチェチェン共和国からの撤退を要求した・・・。

 モスクワ劇場事件は、要求があっての人質テロ事件であるだけに、人質の見張りや管理と政府軍攻撃防御、長期戦対応のために、42名のテロリストが動員されたが、昨今のような短時間の単純な一般人殺害・自爆目的のテロならば、十数名の人員でも実施し得るだろう。劇場内に手榴弾を投げ込み乱射すれば、警察や軍が駆けつける前に大量の犠牲者が出るだろう。

 想像するだけでゾッとする。

 現状、コンサートホールの警備や保安体制が手薄になっている。入場者の保安検査は皆無だ。爆薬や銃器の持ち込みはなんら支障もない。ホールの高所にあるボックス席に数名のテロリストが観客に扮して開演前に混入して、前後左右数箇所を抑えていれば、結果は想像を絶する。

 すべての危険要素がほぼそろっているのが、このコンサートホールである。

 私自身もクラシック音楽愛好家であって、毎月一度はツインタワーのコンサートホールに足を運んでいる。一方、リスク・マネジメント・コンサルの仕事もしているだけに、本能的に恐怖感を覚えたのは一度や二度ではない。この際、余計なお世話と承知の上、関係者を通じてホール側に老婆心の懸念を伝えたいと思う。

<続編>

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