マレー半島東海岸の旅の終わりに、一件、バックデートしないといけない。初日8月13日(土)、クアラトレンガヌ滞在日の夕食。場所は、中華街のはずれにある「Mike 2 Seafood」という寂れたレストラン。
清蒸石斑魚。ハタの姿蒸しはまさに「古法」の蒸し方。この蒸し方は結構難しいのだ。魚の大きさや特に身の厚さによって、蒸す時間を都度調理人が決めるらしい。そのうえ、臭み取りの葱やショウガの敷き方、蒸し上がった魚への高温葱油のかけ方、そしてソースの魚露と老抽(たまり醤油)の調合配分など、どれも職人の腕の見せ所である。
通常ならこの一品は最後に出てくるものだが、その日は一番冒頭に頼んだのも、鈍っていない感覚でじっくり楽しみたいからだ。期待を裏切ることなく、いやいや期待を超えたできであった。伝統的な技、職人のセンスが感じられる。申し分なし。
続いては、ララー(アサリ)の炒め物。屋台でよく食べるものよりはアサリが新鮮。少々味が濃厚すぎたが、ご飯と一緒に食べることを前提とした味付けなら、文句をつけられる筋合いはない。
3品目は、店主お勧めの地場料理、蝦のココナッツカレー。これは南国スタイルのアレンジ作である。あくまでもココナッツ風味かと思ったら、何と椰子の実に盛られて出てきた。驚きだ。さらに食べてみると、ココナッツの果肉も入っていた。何と南洋風の一品であろう。ふと島崎藤村の詩「椰子の実」を思い出す。
「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実一つ 故郷の岸を離れて 汝はそも波に幾月」
南洋はなぜか郷愁を誘う。次に出てくる一品、地鶏の塩焼き。これもまたシンプル過ぎて、感傷的なカントリームードを漂わせる。何の飾りもないシンプルな塩焼き、野性的に引き締まる地鶏の素朴な美味を何重も引き立ててくれる。もはやこの手の料理はシンガポールや香港あたりの都会型中華レストランではもう味わえない。
郷愁というテーマであれば、田舎風の手作り豆腐の揚げものが欠かせない。白酒がほしいところだが、やっとのことでこの店は辛うじてビールだけ出してくれるので、なんとかそれで我慢。白酒があったら、恐らく斗酒なお辞せずの状況で豪飲していたことだろう。
もうほとんど腹いっぱいだが、我が家のしきたりに従って、やはり締めくくりの主食を食べずに帰れない。ご飯か麺か粥か、焼きや炒めかスープか、妻と協議に入る。2人なので投票制が取れない。最終的に話し合って合意したのは、伊麺。もう味を評論するにも用語が底突きで、ノーコメントで締めくくらせてもらう。
クアラトレンガヌの美食の1日に感謝、感謝。ご馳走様でした。