アラブの旅(6)~ワヒバ砂漠の賛歌、諸行無常の啓示

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 新年を迎えての1月1日(日)。8時30分にオマーン人ガイドとホテルで合流し、4WDを飛ばして一路ワヒバ砂漠へと向かう。新年早々休みのところ仕事をお願いしてごめんなさいと言ったら、「今日は通常の勤務日ですよ」と。西暦という概念がなく、金土が週休のムスリム(イスラム教徒)にとって、日曜日の元旦は仕事日なのである。

砂漠へ向かう途中のトイレ休憩

 2時間30分疾走してやっと砂漠の気配を感じ始める。さて、砂漠とオアシス。どっちを先に見るかと聞かれると、まずオアシスを見ようと決めたい。砂漠があってのオアシス。砂漠がなければ、いわゆるオアシスも単なる河川や渓流に過ぎない。アラビア語の「ワディ」とは河川の意味で、オアシスほど強烈なインパクトがなく中性的な表現だとガイドが教えてくれた。

 雲ひとつない真っ青な空、ゴツゴツした無表情な岩山、乾燥し切った大気・・・。なんだか地球以外の大地に放り出されたような疎外感を抱く。徐々にパームツリーが増えてくると、そこはもうワディ・バニ・ハリド。

 まず色合いからして強烈なコントラスト。褐色の宇宙に突如と現れた緑色の世界。生命と希望、このような表現がぴったりであろう。だが、私が選んだのは、この生命と希望のオアシスを捨てて砂漠に突入するという本日のストーリーである。

 ワディ・バニ・ハリドから離れた車がしばらく走ると、道端の車メンテ屋に止まり、4つのタイヤから空気を抜く作業が始まった。通常の舗装路を走ることを前提にした空気圧では、タイヤが砂に沈み込んでしまうからだ。低空気圧にするとタイヤはふにゃふにゃ状態になり、その分接地面積が増えて、砂の上でも十分なグリップを得られるという。

 砂漠といっても、砂丘の連続である。車はまるでジェットコースターのように前後左右激しく揺れながら疾走する。坂道発進ができない故に、下りの勢いをうまく利用して登っていくようだ。

 ワヒバ砂漠。約1万6000キロ平方メートルという広大な砂漠。赤、オレンジ、白の砂があって場所によっては風景が一変する。荒涼でありながらも情熱的で、静寂でありながらも躍動感溢れる、対立や矛盾を孕んだ非日常的な世界である。

 無数の砂の粒は風によって排列の変化を命じられ、風紋が刻々と変わってゆく姿。もしやそれが、諸行無常の啓示を人間に与え続けているのかもしれない。その砂漠の賛歌は生を讃えているのか、それとも死を?知る術がない。

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