アラブの旅(17)~酒に女、生前楽園のアラビアンナイト

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 アラブ人が酒を飲んでいる。一瞬、私は自分の目を疑った。バーレーンの某高級レバノン料理店で目撃した紛れもない事実だ。

バーレーン市内某高級レバノン料理店

 サウジアラビア風のカンドゥーラ姿の男性たちとアバヤ姿の女性たちのグループがワインを飲んでいる。中に色気満点のアラブ系女性が男性としっかり手を握って談笑している。

 まるで、同伴出勤のようだ。いや、もしかしたら、同伴出勤だったかもしれない。時間は木曜の夜22時、金土休みのアラブ系にとってはまさに「ハナモク」だ。

 22時過ぎると、ショーが始まる。アラブの歌やダンスが次々と繰り広げられる。どんどん盛り上がるエキゾチックなアラビアンビートに乗って客も男女問わず肩や腰を振り出し、踊り始める。

強烈なビートに乗ってベリーダンスが始まる

 ショーの踊り子は舞台から降り、客席を回って客と一緒に踊る。なかに、これもサウジ人風のオジサンが踊り子をつかまえてついにペアで「アラビアン・ワルツ」状態になる。

 客の女性たちは次々とヒジャブ(スカーフ)を脱ぎ捨てると、その美貌ぶりにはただただ驚くだけ。豊満なボディに堀の深い顔立ち、濃い目のメイク。それにヒジャブから解放された長い髪が肩に垂れた時点で、もう言葉が出ない。

 酒飲み、女性の肌の露出と色気、異性とのスキンシップ。宗教の戒律に厳しく規制されている項目の数々、ここでは欠片もなく捨て去れた。

豪華なレバノン料理

 コーラン第56章10節から24節ならび27節から40節にでは、死後の楽園についてこう描写している――。

 「錦の織物を敷いた寝床の上に、向い合ってそれに寄り掛かる。永遠の少年たちがかれらの間を巡り、手に手に高坏や輝く水差し、汲立の飲物盃を捧げる。かれらは、それで後の障を残さず、泥酔することもない。また果実は、かれらの選ぶに任せ、種々の鳥の肉は、かれらの好みのまま。大きい輝くまなざしの、美しい乙女は、丁度秘蔵の真珠のよう。これらはかれらの行いに対する報奨である」

 「本当にわれは、かれらの配偶として乙女を特別に創り、かの女らを永遠に汚れない処女にした。愛しい、同じ年配の者。これらは右手の仲間のためである。昔の者が大勢いるが、後世の者も多い」

 もしや、これは楽園の生前体験ではないだろうか。この体験をもってまた明日も彼たちは修業に励むことだろうと、私はそう想像している。それにしても、アラブ人、特に戒律がもっとも厳しいサウジアラビア人はまさかこんな享楽ぶりを見せるとは驚くばかりだ。バーレーン人のタクシー運転手に聞いたら、彼が思わず噴き出した。

 「酒?酒は飲みますよ。サウジ人は酒大好きなのさ。女も好きよ。スケベオヤジが多いですよ。サウジ人の金持ち連中が週末になると、バーレーンに押しかける。酒も女も何でもやる。エクスヒビション通り(注:バーレーン一の歓楽街)あたりのレストラン、パブ、クラブはサウジ人客が来なかったら、全部潰れますよ。まったくも、狂ってるよ。この世の中。ほら、この酷い渋滞も全部サウジ人のせい・・・」

ライトアップされるバーレーンのグランドモスク

 時は零時。バーレーンのグランドモスク前は相変わらず大渋滞。

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