アラブの旅(24)~虚無なアラビアンナイト、アラブとは何か?

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 アラビアンナイト。アラブの旅には、意識せずにいられない要素の1つである。しかし、実際は本家のイスラム地域ではあまり語られていない。国民文学的な地位も得られていない。

ベドウィンのテント

 その理由について、国立民族学博物館の西尾哲夫教授が、3つにまとめている。

オマーンの砂漠

 1つ目、アラビアンナイトの内容の中に、イスラムの教義に合わない点があること。2つ目、文学的な正統性の問題。3つ目、中東世界では「民話的なるもの」に対するまなざしがそもそも冷淡だということ。

マスカットの海辺

 この辺の話、完全に突っ込んでしまうと収拾が付かなくなるので、展開しないが、2つだけ課題提起程度的に触れてみたい。まず、「アラブとは何か」だ。

ニズワ・スーク

 政治的連盟とか国際法上の国境を概念として捉える国家とかよりも、アイデンティティ次元における「アラブ人」という概念はどのようなものか。かなり乱暴な直感ではあるが、「中華」という概念と比較して若干似通っているようにも思える。いや、アラブの方がもっと複雑なのかもしれない。

ニズワ・スーク

 少なくともアラブの統合よりも、分断がより現実に即した実務的なソリューションであろうし、今後もそうあり続けるだろう。

ニズワ・スーク

 次に浮上する課題は、「アラブとイスラム教の関係」である。さらに言ってしまえば、イスラム前のアラブ世界とはどのようなものか、メッカのカアバ神殿に祭られていた800体の偶像神が、アッラーという唯一神によって駆逐されたことはアラブにどんな意味を持つか、イスラム教とアラブ世界との親和性は果たしてあったのか・・・。

マスカットの夕暮れ

 私個人的にはこの辺に大きな興味を持っている。

マスカット市内のモスク

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