リスク管理の経済学、「未曾有」「想定外」は逃げ道

 リスク管理、あるいは、クライシス・マネジメント(危機管理)に対して企業はかなり温度差がある。非常に熱心な企業は少数ながら取り組んでいるが、大方の企業(特に日系企業)は無関心、無防備のままである。

 リスク管理にはコストがかかる。特にノウハウが皆無という前提であれば、なおさらコストがかかる。それに対してリスクの発生率はどのくらいかという命題がある。つまり、たとえば、1%の確率のリスクに数百万円、数千万円のリスク管理、防御コストをかけて妥当するかということだ。具体的にいくらかけるかを最終的に判断する必要がある。

 では、10%の確率であれば、もうちょっとコストをかけよう。それが30%になると、大きなコストをかけなければならない。といった具合に、リスク発生の蓋然性、確率とそれに相応するリスク管理コストの適正な比例関係を割り出し、確定することだ。

 この作業に必要とされる1つの重要な数字は、リスクに晒される財産の総額である。たとえば、100億円の財産に5000万円程度のコストをかけたらどうだろう、いやかかりすぎだ、では3000万円で妥当するかといった社内の議論と意思決定だ。

 そこで量で表せないものがある。それは人命だ。たとえ1%のリスクであっても、単なる財産喪失ならまだしも、人命がかかっていたら大変なことになる。それに対してもっとコストをかけるべきだろう。では、どのくらいの数字が妥当であろうか、意思決定する必要がある。

 以上述べているのは、リスク管理以前の問題で、リスク管理のための準備である。しかし、このような準備でさえ、多くの日系企業に関心をもたれていないようだ。リスク管理をしないのだったら、明確にすればいい。それも1つの選択肢だが、ただひたすら濁すのである。誰もが言い出せない。言い出した人間は、「煽っている」といわれるのがオチだからだ。

 いわゆる日本式組織の「症候群」の1つである。幸い最近、「未曾有」や「想定外」といった日本語も多用されるようになって、企業トップにはいくらでも逃げ道がある。彼自身のリスク管理はどうやらしっかりできているようだ。このような世相である。

 平和を祈ろう。誰でもいえるのだが・・・。

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