2つの思考システム、愚民教育はなぜ成功するか?

 人間には、2つの思考システムがある。

 1つは、直観的思考システム。既往の経験や一般論、感情(共感、または反感)、そしていわゆる常識など事前に備蓄された素材が自動的に、ほぼ瞬時に機能するものである。「情報呼び出しシステム」と、私は別名を付けている。

 もう1つは、分析的思考システム。それは上記に関係なく、白紙状態(ゼロベース)において、理性的に仮説を立て、論理的推論を行うものである。これは、瞬時ではなく、情報の処理に時間がかかり、「情報処理システム」である。

 後者が、前者を検証する。時には前者を(一部または全部)否定し、修正する役割を果たしている。前者は先天的に身に付くものだが、後者はほとんど後天的に、反復の訓練によってはじめて身に付く可能性が出てくる。

 ごく少数の統治者(為政者)が多数の被治者(国民)を治めるために、被治者が分析的思考システムをもつよりも、直観的思考システムをもったほうが断然都合がよい。

 要するに、「なぜ、統治者がわれわれのうえに立つのか」という分析的思考よりも、「統治者は、うえに立つものだ」という直観的思考が、何よりも重要だ。

 たった、たったその1つの目的のために、統治者は、被治者の分析的思考システムの造成を妨害すべく、直観的思考システムの教育を広げるのである。皮肉にも、直観的思考システムの装着が楽でときには甘美なものであるのに対して、分析的思考システムの造成は苦痛に満ちたものである。それは統治者にとって実に好都合である。

 結果は周知の通りだ。いわゆる愚民教育の成功は、このような原理に基づいている。