グリーンランド(9)~疲労困憊、旅程のリスク管理を再考

<前回>

 カンゲルルススアーク空港で足止めを食らう。

 10時間の遅延。何があったのか。機体故障か。機体整備の部品の取り寄せで時間がかかるならやむを得ない。しかし、そうではない。前日の悪天候でグリーンランドの一部の地方で便のキャンセルがあって、その乗客たち(の乗継ぎ)を待つためにコペンハーゲン便の出発を遅らせたのだった。

カンゲルルススアーク空港で待機中

 グリーンランド航空は、大型ジェット機はエアバスA330型の1機しかもっていない。それはコペンハーゲン便にのみ使用されている。グリーンランド各地からプロペラ機で観光客をカンゲルルススアーク空港に送り込んで、そこでまとめてコペンハーゲンまでエアバス機で運ぶ、というシステムになっている。

 しかも、コペンハーゲン便は週3便しか飛んでいないので、乗継ぎできなかった乗客をカンゲルルススアークで最低2日滞留しなければならない。その乗客たちにコペンハーゲンより先さらなる乗継ぎ遅れが生じた場合、航空会社の補償は多額に上る。しかも、今のような夏季繁忙期だと、2日後のコペンハーゲン便も満席状態なので乗せられない可能性が高い。つまり事態は収拾できないほど拡大する。

 だから、何が何でも全員をこの飛行機に乗せる必要があるのだ。たとえ出発を10時間遅らせようと。そもそも航空会社は、10時間くらいの遅延を想定して、週3便という「余裕型」スケジュールを組んでいるのではないかとも疑わざるを得ない。そうならば、「確信犯」だ。

 グリーンランドという土地柄、ビジネス客は希少でほとんど観光客である。季節の影響が大きい。たとえばジェット機をもう1機追加投入した場合、年間の半分が寒冷期、つまり閑散期にあたり、搭乗率がガタ落ちして採算が取れなくなる。そのため機材追加投入の固定費をかけられない、というような事情があったのではないか。

 8月18日(金)、搭乗予定のグリーンランド航空GL780便、カンゲルルススアーク11時40分発が10時間以上も遅延したところ、果たして21時55分に飛んでくれるのだろうか。という大きなリスクを私が抱え込んでいる。航空会社の職員に再三確認しても、「必ず飛ばします」とかなり断定的な回答だった。

 飛ぶだろう。22時台に飛べないなら、10時間以上も待ち続けた乗客にホテル宿泊を提供しなければならない。グリーンランド現地の物価相場では、業者割引が効いても1室あたり最低150ドルから200ドルはする。航空会社にとって当該便の利益がほとんど食い潰される。

 さらに空港内併設のホテルのフロントに照会すると、当日午後現在はすべて満室だという。エアバスA330型1機の乗客数は250名前後、家族同室で計算しても最低100室が必要。だが、ホテルの部屋数は70室、しかもチェックアウト時刻の正午を過ぎても満室状態。つまり、GL780便の乗客を収容する余裕がまったくない。

 まあ、なんとか今夜中は飛ぶだろうと、私は職員の回答よりも、一連の推論を根拠に肯定的結論を得た。

 18時、空港ホテルのレストランでブッフェの夕食を食べ終えた頃、コペンハーゲン便の保安検査が始まった。21時35分、遅延予定時刻よりも20分早く、グリーンランド航空GL780便がカンゲルルススアーク空港を飛び立った。

 翌日8月19日(土)早朝5時45分、飛行機はコペンハーゲン・カストラップ国際空港に到着。予約しておいたクラリオン・コペンハーゲン・エアポートホテルにチェックインしたのは、朝7時。部屋はチェックアウトの12時まで5時間しか使えない。それでも貴重な5時間だ。簡単なメールチェック、次のタイ国際航空乗継便のウェブチェックインを済ませ、そして何よりも熱いシャワーを浴びてベッドに飛び込む。2時間だけでも睡眠を取ろう。

コペンハーゲン・カストラップ国際空港を出発

 8月19日(土) 午後14時25分、タイ国際航空TG951便はコペンハーゲン・カストラップ国際空港を定刻出発。機内食のランチを食べ終えたころ睡魔に襲われ、そのまま熟睡。

 早朝、スープの良い香りで目が覚めると、隣席の乗客がラーメンを食べていることに気付く。客室乗務員に聞いたら、リクエストあればインスタントラーメンを提供していると。早速トムヤムラーメンを注文。いやいや長旅途中の温かい汁物は旨いこと・・・。

 8月20日(日)、早朝5時45分、TG951便はバンコク・スワンナプーム国際空港に到着。2週間ぶりのアジア。ラウンジで休憩して、3度目の乗継ぎで朝9時5分発のタイ国際航空TG415便に乗り込む。正午過ぎ、クアラルンプールに帰着。

 2泊3日の移動。さすがに疲労困憊。何よりもグリーンランド航空遅延の1件で、大きな教訓を得る。今回は幸いにも10時間の遅延だけで無事乗継できたものの、リスクがこれで消えたわけではない。旅程を立てる際、深刻な遅延に備え、全面的なリスク管理が欠かせない。

 旅はやはり楽しい。知見を広げ、仕事上のヒントも得られる。

<終わり>

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番外編(3)~絶景求めて、中国人の結婚写真ロケは地の果てへ
番外編(4)~少子化は好機、日本は高生産性自立型社会目指せ
番外編(5)~日本人よ頭冷やせ、真の高福祉国家とは何か
番外編(6)~サバイバルを美徳とせよ、トリクルダウン理論の真義