西塘古鎮(2)~旧邸宅と庭園の建築学・社会学的雑想

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 西塘古鎮には数多くの旧邸宅や庭園が「景点」(観光スポット)として保存されている。一つひとつ見学していくのが面白い。

 大学で建築専攻だった私は、「空間」にはいまでも興味を持ち続けている。中国の伝統的な邸宅といっても、南北地域や文化の違いで様々な様式がある。

西塘・倪宅内承慶堂

 西塘のような「江南スタイル」の旧邸宅は何と言っても、「庁」や「堂」と呼ばれるメイン・ゲストホールが建物の中心となる、という特徴がある。邸宅の主人が接客する間として、各人の主賓・上下関係が一目で分かるような座席配置になっている。よく見ると、現在中国政府の外国賓客接見の間も似たような空間でその延長線上にある。

西塘・王宅

 中国の庭園構成も特徴が目立つ。分節によって重層的な空間を作り出している。日本の庭園は確かに目立った分節が見られず、あるいは分節という概念もなく池を中心にした配置だが、中国は分節を重視し、重層的に構成された空間を回遊するという形態である。

西塘・酔園

 さらに外部景観を取り入れる借景も重視されておらず、内部景観という「小世界」で空間の限定的完結をコンセプトとしている。山や川・渓谷といった「山水」をそのままミニチュア化したところ、これらを俯瞰する主人的目線に価値を置く。

西塘・酔園

 最近、聞くところによると、多くの中国人富裕層は、中国庭園よりも枯山水風の日本庭園に傾倒しているとか。真偽はさておき、単なる流行なのか、それとも侘び寂びの心に惹かれたのか、それは知る由もない。

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