旧正月前の解雇決行、人事部長の剛腕ぶりに脱帽

 上海出張中。滞在する虹橋錦江ホテルで朝食を取りながら、隣のテーブルの50代中国人ビジネスマンが電話している声が聞こえてくる。

 「うん、うん。要するに解雇決定だな。それで何が問題なの。・・・払ってやりなさいよ。その1か月分の給料を。・・・いや、そうじゃなくてそう決まってるんだったら、法律には抗うなよ。・・・」

 「君ね、人事部長として職務を全うする、君の立場も意思もよく理解できる。確かに金額は膨らむし、コストの問題もあるだろう。けれど、別問題なんだから、これは。きちんと1か月分払って、引継ぎもしっかりやってもらえばいいじゃないか。・・・」

 「うん、うん、なるほど。『脱密』終わってる。引継ぎも終わってる。社内で問題を起こすから、即時(解雇)ですね。なるほど、よく分かりました。それでも、旧正月前なんだから、1か月くらい出しなさいよ。・・・」

 「えっ、そういうことか。意図的に旧正月前?なるほど、そういう意味ね。よし分かった。君はその辺の専門家なんだから、信用するよ。分かった。じゃ、円滑にな、よろしく」

 中国の人事畑が長い人間なら、大筋の内容はそれで推測できる――。

 人事部長が上司(恐らく社長)に、上級幹部の解雇決定を報告している。解雇対象者は恐らく顕著な不適任だったり、あるいは深刻な問題を引き起こしていたのだろう。社内で見せしめ(戒める効果)のため、わざと旧正月前という時期を選んで、解雇を決行する。

 中国の場合、旧正月前にクビすることは、一種の強烈なメッセージを込めている。それは会社が絶対に容認しない行動や人物に対する断固たる対決姿勢の表れでもあろう。

 その解雇を決行するために、人事部長は長い期間をかけて周到な準備を行ってきたようだ。「脱密」(トウミー=秘密からの離脱)とは、企業秘密を掴んでいる上級幹部の解雇に先立って、一定の期間をおき、企業秘密から段階的に離れるように行われる人事や担当職務の調整のことだ。

 解雇通告したところで、社内でまともに引継ぎなどやるどころか、破壊工作に取り組む危険さえあるから、即時解雇をもって即時退去を求めるのが中国の常識である。

 電話口の向こうにいる人事部長の剛腕ぶりには脱帽。また理解のある社長もなかなかの経営者である。中国企業のそういうところに、日系企業は学ぶものが多い。

 経営者たるものは、「帝王学」を勉強せずに美辞麗句の「安心」や「安定」たる性善説に固執すれば、企業は必ず凋落する。特に中国で。

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