癒しの茶リゾート(杭州)へ

 ここ1か月、ほとんど土日なしの仕事でした。体がぐったり・・・

 2月最後の週末、1泊というつかの間の休息で、上海を離れることにしました。元部下のKさんも上海に来ているので、同行することになりました。

 行き先は、杭州郊外の陸羽山荘リゾート(邦字誌Wheneverの紹介)です。お茶をテーマとした珍しいリゾートです。

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 5つ星の高級リゾートですが、あの有名な旅行ポータルサイト「携程」(Ctrip)で予約すると、何と500元代でした。電車+タクシー(杭州市内からタクシー40~50分)で行くなら、交通費・食費入れて、1泊2日、一人あたり800元~1000元の予算を組めば、十分に豪華なカントリーリゾートを楽しめます。

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 2月28日、出発当日、あいにくの雨模様。お客さんもいることで、会社の車を使っていくことにしました。9時過ぎに上海の街を後にして南下します。渋滞もなく、11時半ごろ、目的地の径山鎮到着。

 寒い季節で、しかも雨模様。観光地の双渓漂流景区には、人影まばらでした。「漂流」とは、筏(いかだ)に乗って川下りのことです。季節はずれだったので、いかだ観光はありません。まず、町で昼食を済ませたいので、小奇麗なレストランに入りました。

 お客さんは、私たち一行のみでした。店に入ると、まず、厨房に案内されました。活字のメニューがなく、現物を見て注文するのが流儀らしい。

 私は、どこに行っても、その地方の料理を食べますので、名物料理の紹介を老板娘(ローバンニャン)にお願いしました。「ちょっと待ってね」と、自慢げに冷凍庫から出してくれたのは、雉(キジ)らしい野鳥。全身の羽毛がついたまま、猟銃に撃たれた傷口も流れ出た血痕もそのまま、凍り付いている。まるで剥製のようでした。

 気持ち悪い・・・、これだけは勘弁して!

 「めったにありませんよ。野生!滋養強壮!特別に100元に負けるから、どうだ?」、
 「要らない!」       
 「じゃ、これはどうだい、ほら、こんなに肥えているよ、このうなぎ」、見せられたのは、バケツの中ににょろにょろの巨大田うなぎ、ほとんど蛇状態。
 「ダメ!これも」

 現物を見ると、食べる気を失ってしまいます。でも、名物料理は食べたい。すると、食材見せをやめて、対面口頭注文に切り替えました。

 本日の献立は、

 ① 紅焼野兎肉 (野ウサギ肉の醤油甘煮込み)・・・肉が引き締まっていて、美味。
 ② 醤燻猪肉 (醤油付け燻製スペアリブ)・・・香ばしい。保存食のため、肉質が非常に堅い。酒のつまみには最適。
 ③ 土鶏砂鍋 (地鶏丸ごとスープ土鍋料理)・・・これは絶品、地鶏の旨みがスープを濃厚にし、風味を引き立ててくれる。
 ④ 醤蒸豆干 (乾豆腐の醤油辛煮込み)・・・大したことがない。
 ⑤ 炒芹菜 (セロリの炒め物)・・・これも薦め、田舎風味、ナチュラル・テスト。
 ⑥ 山盛りのご飯
 ⑦ 自家製もち米の酒・・・日本のにごり酒と韓国のマッコリーが結婚して生んだ子って感じ、ホットでもアイスでも美味しい。ちなみに、業務用サラダ油の超特大サイズボトル1本で15元。

 「ご馳走様」、昼食は、4人全部で140元でした。

 リゾートにチェックインすると、部屋に案内されます。

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 今回は、行政楼(エグゼクティブ・フロア)で、スイートルーム(720元)とデラックスルーム(560元)1室ずつ取りました。スイートルームは、ベッドルームとリビングルームが完全別部屋になっていて、トータル60平米以上もあって、とても広々としています。1階の部屋なので、直接に庭に出ることができて、開放感溢れる間取りです。

 ただ、インターナショナル系のホテルに比べると、欠陥も目立ちます。

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 トイレ・バスルームにエアコンが入っていません。冬場のトイレ・バスタイムは最悪、ぶるぶる震えながらのひと時です。それから、シャワーブースの床部に突起がなく、シャワーを5分くらい浴びていると、ブースの外は水浸し・・・、アメニティーの品質も、悪い。石鹸は、消毒液のにおいがぷんぷんします。

 最悪なのは、洗面台に、大人のおもちゃならぬ大人のグッズ一式がご丁寧に用意されていることです。

 「男よ立ち上がれオイル」、「皇帝の力ゼリー」と普通のコンドームがセットになっています。

 もちろん有料販売です。中国のホテルでこの類のアメニティー・グッズをはじめて見たわけではないのですが、ず~と、解けない謎があります。

 チェックアウトの際に、フロントに必ず「お部屋のミニ・バーなどお使いになられましたか?」と聞かれます。そうすると、どう答えればよいのだろうかと迷ってしまう。胸を張って、「成人用品」と答えられますか?

 恥ずかしがり屋の人は、顔を真っ赤にして、「アレ、アレを使わせてもらいました・・・」
 「アレって?ああ~、アレですね・・・、分かりました、1セットですか、2セットですか?」
 「あ、あ、あの、2セットです」
 もう、フロントスタッフの顔は正視できません・・・

 まだ、疑問があります。ホテルの利用明細書に、どのような科目になっているのだろうか?出張者の場合、もちろんこの項目は自己負担で経費総額から差し引きますが、そのままの明細書を会社の財務にとても出せません。

 いくら日本でも、ラブホテルでは、係員とお客さんは、ご対面のないように、いろんな配慮がなされています。中国のサービス業は、まだまだですね。大人のグッズなら、別途勘定とか、自動販売機とか、もう少し、ホテル側として考えて欲しいものですね。

 それと、基本的なことですが、この類のグッズを客室に置いたら、どんな立派なホテルでも、5つ星のラブホテルに転落します。

 念のため、私が、このホテルのフロントにチェックに行きました。ちゃんと、「五星級」の認定証が堂々と掲げられていました。

 確かに、「五星級」の格付けを得るために、設備や施設からアメニティー・グッズまで、細かい条件や要求があります。しかし、そのほとんどは「なくてはならない」ものばかりで、「有ってはならない」ものがありません・・・ちょっとおかしくないか?

 「ほう~、中国人は、とても情熱的で、アレが好きなんですね・・・」、宿泊の外国人がホテル備え付けのグッズを手に取って、素直にそう思うのかもしれません・・・

 ああ、赤面・・・

 この土地には、径山茶(ケイザンチャ)という緑茶が産出されます。陸羽山荘リゾートの構内にも、茶畑が一面と広がっています。小川があったり、牛が散歩したりして、とても牧歌的なカントリー風景で、心が癒されます。

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 毎年4月初頭に、お茶祭りが催され、リゾート内で新茶をその場で煎って販売するそうです。

 フロントから、「ティー・クーポン」の差し入れがあったので、早速昼下がりのひと時を茶室でのんびりと過ごすことにしました。

 茶室とは、リゾート本館1階のティー・バーのことです。一面とガラス張りで、牧歌的風景を眺めながら、優雅にお茶を楽しみます。

 早速、淹れてくれたのは、地元産の径山茶です。グラスに湯を注がれると、とても華奢で、深い緑色をした細長い茶葉が、ゆっくりと開き、沈下していきます。また、全体的にうぶ毛のような繊毛が浮かび、幻想的な世界になっている・・・

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 径山茶は、あの有名な龍井(ロージン)茶によく似ていますが、もっと口当たりが甘く、くせがない。径山茶は、中国茶の書物には、「葉は嫩く外形繊細にして繊毛あり、翠緑色で香り爽やか。茶湯は味まろやかで翠緑色をなし透明である」と記載されている。

 また、その歴史を調べると、大変面白いことが分かりました。

 どうやら、日本にもたらされたお茶の原型が、径山茶ではないかなどといわれているのです。清代に書かれた書物の中には、「1235年(宋代)に日本の国師が茶の栽培などを学んだ」という記載も登場するらしい。さらに、大応国師別名、南浦紹明)も1259年に径山寺で禅を学び、宋(中国)から帰朝の際、この径山寺から茶の臺子(茶の湯で用いられる棚)などの茶道具一式を持ち帰って、中国の茶の方式を大徳寺(京都)に伝えたといわれています。日本茶の祖といわれる栄西も、この余杭の地に一時期滞在したといわれ、径山茶を持ち帰ったのではないかとも推測され、その意味においても、日本茶の祖先である可能性はきわめて高いとされています。

 中国伝来の茶が、どのように今日の日本茶に変身したのか、今度勉強することにしましょう。

 午後は、小雨がしとしと降り続け、どこにも行けません。でも、杭州は、小雨に似合う街です。どっか郷愁を誘います。

 ホテル部屋の中で、溜まった新聞を読み、ゆっくりと過ごします。あっという間に、日が暮れた。

 さて、期待の夕食です。当然お目当てが地場料理で、中華レストランに直行。ウエイトレスに聞くと、やはり、野味(イェーウェイ=野生動物)が当地の名物だそうです。最近、日本国内でも「ジビエ料理」に徐々に人気が出始めていると聞いています。「ジビエ」とは、狩猟で捕獲した野生の獣を指したフランス語です。野生動物の料理は、「ジビエ料理」といいます。

 日本人はどうもゲテモノ扱いでなかなか食べられませんが、我が家は、妻も中国暦が長く、好んでいろんな珍しい料理を食してきました。今までの最高記録をいうと、広州で食べたゾウガメや孔雀料理などが挙げられます。蛇は、日常食に近い存在です。秋冬になると、妻が、「そういえば、今年は、まだ蛇食べてないわね」と言ったりして、我が家では、蛇料理は、季節の風物詩です。

 そういえば、リゾート構内の公共スペースは、どこも暖房が入っていません。中華レストランの案内嬢は、毛皮付のチャイナドレス姿です。とても寒いので、自然にスタミナを欲しくなります。一通り、料理を決めると、さあ、今日は白酒にしようと、決意しました。

 今夜の献立ですが、

 手剥筍 (剥きタケノコ) 15元  
 苔菜豆板 (カリカリ空豆の岩海苔風味) 16元
 美味黄鹿肉 (鹿肉の煮込み) 68元
 紅悶野鴨 (野鴨の煮込み) 48元
 椒塩蛇段 (蛇唐揚げ) 54元
 香椿炒蛋 (玉子と香椿(チャンチン)炒め) 28元
 臭豆腐 (チュードウフ) 20元
 生煎包子 (煎り饅頭) 18元
 杭州片児川 (高菜の杭州風ラーメン) 28元
 白酒

 とびきりの美食ではありませんが、まあ、季節の風物詩程度の味わいを楽しむことができたといえます。例の蛇は、思ったよりも、貧弱で肉付きが悪かった。しかし、鹿肉は旨かった。

 鹿肉は非常に脂肪分が少なく、下手な調理だと、ガチガチ硬くなって、とても食べることができません。フランス料理でも、ときどき鹿肉がでます。数年前に、南仏のニースで食した鹿肉ステーキは、肉質がやわらかく、ほとんどピンク状態で焼きあがっていたのが、いまでも印象に残っています。

 日本国内なら、北海道の蝦夷鹿が有名です。ただし、野生ではない。蝦夷鹿を放牧させ、根室の潮風を浴びて育ったミネラルを豊富に含んだ草を餌として与えて育て、臭みと獣臭さがなく、大変美味しい鹿肉です。

 陸羽リゾートの鹿肉は、上質さこそ欠けているものの、うまい具合に煮込んで、硬い感じはまったくしません。脂肪がほとんど含まれていない筋肉質感は、何ともいえない。それに、白酒をぐいっと飲み干せば、体がいつの間にかポカポカになりました。

 幸せ一杯の夕食、ご馳走様でした。料金は3人で500元。