中国の台湾奪取、米軍は勝てるか?3つの前提

 中国の台湾侵攻は撃退可能、ただし米軍の損害も甚大(8月10日付けブルームバーグ)。――米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザー、マーク・キャンシアン氏は台湾有事シミュレーションについて、次のように語っている。

 「米国は制空権と海上優勢を確立する前に中国の艦隊、特に水陸両用艦を攻撃するために軍を派遣しなければならない。損害のスケール感を理解するために言うと、直近のウォーゲームでは4週間の戦闘で、米国は戦闘/攻撃機900機余りを失った。米海軍・空軍の保有機数の半分近くに相当する」

 このシミュレーションには、3つの前提がかかっている――。前提その1、米国は台湾有事に米軍を動員する。前提その2、それだけの損害を出してでも戦い抜く。という2つの意思決定を米国がするかどうかだ。さらに前提その3、中国は武力侵攻することだ。

 米国は本気で台湾を守るとは思えない。96年の台湾海峡危機、米国はすぐにニミッツ級打撃群を台湾海峡に送り込んだ。しかし、今回のペロシ台湾訪問後、空母レーガンはすぐにペロシと共に日本へ逃げた。万が一起こり得る軍事衝突に巻き込まれないためだ。その後の中国軍の軍事演習を見る限り、台湾は、台中中間線も12海里も失った。第一列島線は崩壊しつつある。

 米国は大きな反応は1つもない。台湾当局は見ざる聞かざる言わざるという三猿状態。報復するなら、台湾独立宣言。できるのか、台湾も米国もその勇気はないように見える。

 経済面をみてみよう。中国は、「台湾」「中華民国」原産地標識の台湾製品の中国輸入を禁止し、製品を差し押さえる。台湾向け原材料の輸出禁止も一部始まった。困るのは、企業ないし末端消費者。じわじわと始まっている。台湾人の分断も拡大するだろう。民主や自由の価値のため、経済的利益の損害を我慢する。全ての人にそれができるわけではない。それが分断する原因。

 民主や自由の価値が経済的利益を凌駕する。という概念が認められ、かつ実践されれば、世界の大半は台湾と国交を結んでいるはずだ。なぜそうなっていないのか。特に米国。他国の台湾断交を妨害しながらも、なぜ自国が率先して台湾と国交を結ぼうとしないのか、なぜ議長訪台までまるで不倫カップルのラブホデートのように扱うのか。

 答えは求めたいと思わない。求めるべきではないからだ。しかし、中国はこの答えを一番よく理解している。世の中は正義よりもまず経済的利益である。だから、上述の前提3になるが、中国は必ずしも武力侵攻という手を使うとは限らない。兵糧攻め「戦わずして勝つ」という戦いの王道を中国はよく理解しているだろう。

 経済封鎖。さらに中国はサプライチェーンという武器をもっている。近代戦は必ずしも武力とは限らない。

 だから、「中国の台湾奪取、米軍は勝てるか」という命題だが、「米軍は戦うか」「どこまで戦うか」そして何よりも「中国は武力を使うか」という3つの前提をまず吟味したほうがよさそうだ。

 

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