中東の現実が示す日本の重大な安保リスク

● アメリカは頼れない

 今回のイラン戦争で、二つの事実がはっきりした。

 第一に、アメリカに守られるはずの中東の国々が、守られていないという現実である。湾岸諸国には米軍の防空システムが展開され、同盟関係も存在する。しかしドローンやミサイルの攻撃は完全には防がれず、実際に被害が出ている。

 第二に、米軍基地そのものが攻撃対象となり、決して不可侵ではないという現実である。中東に展開する米軍拠点は、ドローンやミサイルによる攻撃を受け、基地機能の一部が麻痺している。米軍基地は安全な後方ではなく、明確な攻撃目標なのである。

 この二つの事実を日本に当てはめると、問題はさらに深刻になる。日本には世界でも最も密集した米軍前方基地が存在するからである。嘉手納、横須賀、岩国、三沢、佐世保。いずれも固定された軍事拠点であり、その位置は完全に知られている。

 そして、ここで忘れてはならない事実がある。中国軍の軍事力は、イランとは比較にならないということである。中国は世界最大規模のミサイル戦力を保有し、弾道ミサイル、巡航ミサイル、長距離ロケット、無人機などを大量に配備している。しかもその多くは、まさに固定基地を攻撃することを前提に開発された兵器である。

 現代の対基地攻撃は、基地を完全に破壊する必要はない。滑走路、燃料施設、弾薬庫、電力、通信といった重要インフラの一部を麻痺させるだけで、基地は作戦能力を失う。航空機が無事でも滑走路が使えなければ離陸できない。港湾設備が止まれば艦隊は補給を失う。つまり、狙われるのは基地そのものではなく、基地の機能である。

 中国軍が研究しているのはまさにこの点だろう。大量のミサイルやドローンによる飽和攻撃で、防空網を突破し、基地機能を麻痺させることが可能かどうか。今回の中東戦争は、その実戦データを観察する材料にもなっている。

● 弾薬問題と非対称コスト問題

 もう一つ、日本にとって見逃してはならない現実がある。弾薬である。今回の中東の戦闘では、米軍や同盟国の迎撃ミサイルの消費量が急激に増え、弾薬不足の懸念が繰り返し指摘されている。ミサイル防衛は極めて高価で、しかも消耗が激しい。

 例えば迎撃ミサイルは一発数億円から数十億円に達するものもある。攻撃側が比較的安価なドローンやミサイルを大量に撃ち込めば、防御側はそれを迎撃するたびに弾薬を消費していく。

 この構造は極めて単純である。攻撃は「量」で行われ、防御は「弾薬」で消耗する。したがって、戦闘が長引けば長引くほど、防御側の弾薬は急速に減っていく。実際、中東の戦闘でも、米軍の迎撃弾薬の補充や輸送が問題になり始めている。

 この問題を日本に当てはめると、状況はさらに深刻になり得る。日本列島は中国本土から近く、戦闘が起きた場合、ミサイルやドローンによる攻撃が短時間に集中する可能性が高い。しかも中国は膨大な数のミサイルを保有している。一方、防御側は迎撃ミサイルという高価で数の限られた弾薬を使わなければならない。

 つまり問題は、基地の強度だけではない。どれだけ弾薬を持っているかという消耗戦の問題である。迎撃弾薬が尽きれば、防空網は事実上機能しなくなる。

 中東の戦争は、この現実を改めて示している。高度な防空システムを持つ米軍でさえ、弾薬消費の問題から自由ではない。まして日本の場合、戦場は遠い中東ではなく、自国の周辺海域と空域である。戦争は技術だけでなく、最終的には「量」と「補給」で決まる。今回の戦闘が示しているもう一つの教訓は、まさにこの古典的な軍事原則なのである。

● 経済封鎖やサプライチェーンの切断

 しかし、日本にとってのリスクはそれだけではない。仮に軍事衝突が発生すれば、同時に経済封鎖やサプライチェーンの切断が起きるだろう。日本はエネルギーや食料、工業原料の多くを海外に依存している。海上交通路が不安定になれば、石油、天然ガス、半導体部材、食料などの供給はすぐに影響を受ける。

 特に中国は日本最大の貿易相手国であり、多くの製造業が中国の生産ネットワークに依存している。戦争になれば、単に軍事衝突が起きるだけでなく、この巨大な供給網が一気に遮断される可能性がある。工場は部材を失い、物流は止まり、金融市場も動揺する。戦争は戦場だけで起きるものではない。国家経済全体に広がる。

 つまり、日本にとっての戦争リスクは三層構造である。
 第一に、ミサイルによる基地攻撃。
 第二に、防空弾薬の消耗による防衛能力の低下。
 第三に、経済封鎖とサプライチェーン断裂による国家経済の混乱である。

 中東の戦争は、日本から遠い地域で起きている。しかし、そこに現れている戦争の構造は、決して遠い話ではない。むしろ、それは将来の東アジアの戦争がどのような形になるのかを示す、一つの現実のシミュレーションなのかもしれない。

 今回の中東戦争を見ていると、日本にとって一つの結論が浮かび上がる。日本は中国との交戦を基本的に避けるべきだということである。理由は単純である。戦争のコストがあまりにも大きいからだ。日本の戦略は明確であるべきだろう。中国との戦争は可能な限り回避する。特に、日本の側から対立を激化させる必要はない。

 しかし現実には、国内には勇ましい反中の声も少なくない。問題は、こうした声の多くが戦争の実際のコストをほとんど考えていないことである。戦争はスローガンではなく、ミサイル、弾薬、燃料、補給、そして経済の問題である。歴史を見れば、国家を危険に追い込むのは必ずしも外敵だけではない。しばしば国内の過度な強硬論や感情的な世論が、冷静な戦略判断を難しくする。

 日本にとって最も厄介なのは、外部の脅威そのものよりも、現実のコストを直視しない国内の勇ましい声なのかもしれない。日本人の敵はある意味で、まず日本人である。

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