なぜ習近平はトランプと高市に感謝しているのか

 国際政治ではしばしば、敵を弱めようとして取った行動が、結果として敵を助けてしまうことがある。もし北京の指導部が本音を語るなら、習近平はトランプと高市に静かに感謝しているかもしれない。

● トランプに感謝する理由

 まずトランプである。彼の外交は「取引」と「同盟軽視」に特徴がある。NATOへの圧力、欧州への関税、同盟国への防衛費要求など、アメリカの同盟網には大きな摩擦が生まれた。その結果、ヨーロッパでは「アメリカへの依存を減らすべきだ」という議論が広がり、外交の自律性を模索する動きも出てきた。

 これは中国の長期戦略と一致する。中国は長年、アメリカの同盟網を弱め、各地域がより独立した外交を取る状況を作ろうとしてきた。もし欧州がアメリカから距離を取り始めれば、中国にとって外交空間は広がる。アメリカの同盟が揺らぐほど、中国は動きやすくなる。

 さらに中東情勢もある。アメリカがイランとの衝突に深く関与すれば、軍事・外交資源を中東に割かざるを得ない。するとアジアへの集中は相対的に弱まる。これは中国にとって時間を与えることになる。台湾問題や軍事近代化の面で、戦略的余裕が生まれるからである。

● 高市に感謝する理由

 次に日本の高市首相である。彼女の強い反中姿勢は国内では支持を集めやすい。しかし国際政治の文脈では、必ずしも中国にとって不利とは限らない。むしろ過度に強い対中姿勢は、中国にとっていくつかの利点を生む。

 第一に、中国国内の結束を強める材料になる。外部の敵が強調されれば、国内政治はまとまりやすい。
 第二に、中国の外交宣伝に利用される。日本が前面で強硬姿勢を取るほど、中国は第三国に対して「中国は包囲されている」「日本は新軍国主義だ」と説明しやすくなる。
 第三に、対立の構図が単純化される。問題は中国の行動ではなく、「陣営対立」や「大国競争」として語られるようになる。

 そして今回のイラン戦争では、もう一つ注目すべき動きがある。中国は現時点でイランを全面的に支持する姿勢を明確には打ち出していない。中国はイランと深い経済関係を持ちながらも、慎重な距離を保っている。この態度は偶然ではない。中国にとって最も重要なのはイランそのものではなく、対米交渉の余地である。イラン問題で立場を固定しなければ、「協力もできるし距離も取れる」という曖昧さが外交カードになる。

● 戦争正当化の大義名分

 そしてもう一つ、中国にとって極めて重要な「副産物」がある。それは戦争の正当化の論理である。今回のイラン戦争では、トランプは自らの直感を理由に先制攻撃を決断したと語り、さらに直感によって戦争を終わらせようとしている。つまり「相手が攻撃してきそうだから先に叩く」という論理が、大国によって実際に使われたことになる。

 国際政治では、この種の行動は必ず前例として蓄積される。もし将来、中国が「日本が攻撃してきそうだったから先制攻撃した」と説明したり、「台湾が独立に向かっていたため武力統一を行った」と主張したとしても、その論理は完全に孤立するわけではない。すでに大国が同じような理屈を使って戦争を始めた例が存在するからである。

 もちろんトランプも高市も中国を助けるつもりで行動しているわけではない。しかし国際政治では意図より結果が重要である。相手を弱めようとして取った行動が、結果として相手の戦略環境を改善することは歴史の中で何度も起きてきた。

 もし北京の指導部が静かに状況を観察しているなら、彼らはこう考えているかもしれない。敵は必ずしも外にいるとは限らない。時には、こちらが何もしなくても、相手が自分で前例と交渉カードを用意してくれることもあるのだ、と。

 中国の立場から見れば、今回の状況は最小コスト、最大効果に近い構図になっている。自分が何かを大きく動かしたわけではないのに、敵を含めた国際環境が勝手に動いてくれるからである。

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