● 「魚の部」から「肉の部」へ
5月5日、韓国旅行5日目。束草での「魚の部」全7ラウンドが幕を閉じ、高速バスに乗ってソウルへ向かった。車窓を流れる韓国の山野を眺めながら、この数日間を振り返る。刺身、焼き魚、アワビ、タコ、ホヤ――東海岸の海の幸を食べ尽くし、朝から焼酎を呷り、港で夕陽に感傷的になった。我ながら、なかなか雑な数日間だった。
ソウルに着けば、旅の後半「肉の部」が始まる。舞台が変わり、相手も変わる。束草では港町の雑草世界にどっぷり浸っていたが、ここからは韓国の巨大都市、産業、AI、未来戦略の世界である。魚から肉へ。漁港から江南へ。焼酎片手に夕陽を見ていた時間から、AIと産業政策を語る時間へ。韓国という国の、もう一つの顔へ入っていく。
● Yeontabal、「純」の空間
夕方、向かったのは江南区のYeontabal(연타발)焼肉店。特양・대창・갈비、すなわち特上ミノ、大腸ホルモン、カルビを看板とする焼肉の名店だ。今回の第8ラウンドは、全北特別自治道・未来先端産業局の朴長煥(パク・ジャンファン)教授とそのご家族を迎えての、家族会食・懇親会である。

ガラス張りの入口、洗練された照明、高級感のある個室空間。束草の市場や港町で見てきた、あの雑草的熱気とは明らかに違う。店員たちの動きは非常に上品で控えめであり、接客も丁寧だ。つまり、ここには確かに「純」の世界がある。
しかし、その「純」は、日本的な静謐さともまた少し違う。空気の奥には、どこか韓国らしいエネルギーが潜んでいる。整えられてはいるが、完全には均質化されていない。高級店であっても、人間の熱量がまだ生きているのである。

● 韓牛とHwayo、韓国的生命力
テーブルには、ユッケ、韓牛(한우)のカルビ、特上ミノ、大腸ホルモン、チゲ鍋が次々と並んだ。韓牛は、和牛ほど極端な霜降りではない。脂が支配するというより、肉そのものの味が前へ出てくる。私には、そのくらいがちょうどいい。年齢のせいか、最近は「脂を食べる」という感覚が少し重くなってきた。その点、韓牛は脂と赤身のバランスが絶妙で、焼酎とも非常によく合う。

特上ミノは、格子包丁の入った厚い白身が炭火でじわじわ焼かれ、噛むと弾力と脂の香りが同時に広がる。大腸ホルモンは、焼けるたびに脂が弾け、炎が上がる。その煙を浴びながら、私はふと思った。韓国人は、本当に「内臓」を愛している。しかも単なる庶民料理としてではない。高級焼肉文化へ昇華している。日本だとホルモンは、どこか「下町」「大衆」「B級」の方向へ寄りやすい。しかし韓国では違う。生命力そのものとして扱われる。つまり、「雑」を高級化しているのである。

そして気づけば、韓国プレミアム焼酎「Hwayo(화요)」を2本も空けていた。いや、正確には、「空いてしまった」に近い。肉を焼き、AIを語り、未来を語り、また飲む。その繰り返しで、いつの間にか瓶が消えていた。韓国の会食は、いつもどこか勢いで進む。日本式の「そろそろ締めましょうか」という空気が弱い。熱量が続く限り、話も酒も止まらない。
● 韓国式「まずやる」
朴教授とは、以前に一度だけZoomでオンライン会議をしたことがあった。しかし、直接会うのはこの夜が初めてだった。グラスを合わせ、互いの近況を語り合ううちに、会話は自然と韓国の産業政策へ流れていった。全北特別自治道が推進する未来先端産業構想。AI、バイオ、スマートモビリティ。地方都市そのものを、先端産業拠点へ転換していく試みである。
率直に言って、日本人の目から見ると、韓国の産業政策は時にかなり「雑」に見える。計画の熟度よりも、実行速度が優先される。リスク分析より市場投入が先行する。雇用問題、社会的影響、規制との整合性――日本なら有識者会議が何年も続きそうなテーマが、韓国では「まずやる」で進んでいく。
もちろん、それは危うさも持っている。AIや自動化が進めば、人は確実に置き換えられる。雇用喪失、格差、地方と都市の分断。韓国社会も、その問題から逃げられない。先端産業推進と社会的包摂をどう両立させるか。それは全北にとっても最大級の課題だという。しかし、それでも韓国は止まらない。
私は焼酎を飲みながら、ふと思った。この「雑さ」こそが、韓国が先端領域で先を走る理由ではないか、と。
私の分析はこうである。韓国は、「ヒューリスティック型競争社会」なのだ。つまり、精緻な設計図を待たない。仮説で走る。まず試す。失敗する。修正する。また走る。最初は「雑」に見えても、競争の中で次第に純化されていく。整合性より速度。完成度より先行優位。この発想が、AI活用でも、バイオクラスター形成でも、スマートシティ実証実験でも、一貫して底流にある。
一方、日本はどうか。計画は緻密だ。議論も丁寧だ。合意形成にも時間をかける。それ自体は美徳である。しかし、気づけば世界は次のステージへ移っている。「雑」を嫌い、「純」を求め続けた結果、速度を失ってしまう。今回の旅で、私は「雑」の快感を全身で浴びてきた。だから韓国の産業政策の「雑さ」も、単なる未熟には見えない。雑草は、整備された花壇より先に地面を覆う。




