韓国雑草の旅(7)~丸棒に敗北するAI博覧会と檜蒸しの雑な勝利

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● AI Expo Korea、丸棒の壁に敗北する

 5月6日、韓国旅行――いや、一応出張――6日目。今回のメインイベント、「AI Expo Korea 2026」の視察日である。会場はソウル・江南のCOEX Hall。5月6日から8日まで開催されるアジア最大級のAI専門見本市だ。AI、ロボティクス、データ分析、AIエージェント。いかにも未来っぽい単語が並び、私は朝から妙に張り切っていた。

 ところが、会場に着いた瞬間、現実に叩き返された。まず登録QRコードで入場バッジを交換する場所で長蛇の列。さらに入場待ちで長蛇の列。AIで世界を変える前に、人類はまず列を何とかした方がいい。さすが韓国である。平日の朝にもかかわらず、若い来場者を中心に凄まじい熱気だった。

 しかし、私は並ぶのが嫌いである。忍耐力がないというより、単純に面倒なのだ。そこで即座に戦略変更。いったんCOEX内のカフェへ避難し、お茶タイムに切り替えた。1時間後、11時過ぎに再突入すると、嘘のようにスッと入場できた。これもまた韓国らしい。早朝だけ異常な熱狂が発生し、1時間後には何事もなかったように流れが変わる。妙に勢いで動き、妙に切り替わりが早い。

 だが、本当の敗北はそこからだった。

 場内を回り始めてすぐ、私の視察計画がいかに雑だったかが露呈する。言葉が通じないのである。宣伝資料やWebサイトには英語表記があるため、私は勝手に「まあ、何とかなるだろう」と思い込んでいた。しかし、実際にブースへ足を踏み入れると、ほとんどの説明は実質韓国語オンリー。講演セッションも当然のように韓国語。丸棒の嵐に吹き飛ばされた私は、内容を理解しようにも足場が掴めない。

 ハングルに完全包囲されると、私は急激に知能指数が落ちる。何社かからパンフレットだけ受け取り、「あとで朴教授に聞けばいいか」と極めて雑な解決策を採択し、気づけばCOEX Mall地下のレストランに座っていた。

● 檜蒸籠と、韓国料理の「力技」

 第9ラウンドは、昼からビールモードで始まった。

 テーブルに運ばれてきたのは、「편백찜(ピョンベクチム)」。ヒノキの蒸籠を使った蒸し料理である。豚バラの薄切り、有頭海老、南瓜、白菜、青梗菜、エノキ、舞茸――食材が木箱にぎっしり積み込まれ、そのまま蒸し上げられる。

 「편백(ピョンベク)」とは檜、つまりヒノキのことだ。この単語自体、日本文化イメージ込みで韓国に取り込まれている。ヒノキの香り、木の温もり、温泉旅館的な空気感。韓国はこういうものを実に柔軟に吸収する。良いと思えば出所をあまり気にせず、自分たちの文化へ組み込んでしまう。

 逆に、日本人の方が「これは韓国風か、日本風か」「どちらが起源か」など、分類作業を始めたがる。あの几帳面さは、時々少し窮屈に見える。

 しかし、この料理そのものは驚くほど雑である。食材を全部積み、蒸す。そして、「はい、肉を葉に巻いて食え」で終わる。しかし、その雑さが妙にうまい。素材を重ね、熱を通しただけなのに成立してしまう。韓国料理には時々こういう「力技」がある。繊細な理屈より、勢いと構造で押し切る。韓国社会そのものに少し似ている。

 TERRAの緑瓶を傾けながら、私はようやく「出張らしい時間」が始まった気がした。AI展示会場より、蒸籠の湯気の方が、なぜか韓国を理解できるのである。

● 本末転倒の、豊かな収穫

 午後2時頃、私はExpo会場を完全に後にし、ホテルへ戻ってまたもや昼寝を始めた。なんと雑なAI視察であろうか。

 そもそも今回の韓国行きは、「韓国AI産業の最新動向を現地で視察する」という立派な大義名分で組まれていた。しかし、その名目に便乗して東海岸の予定を詰め込み、束草の漁港を歩き、焼酎を飲み、港町の夕陽に感傷的になり、気づけば旅の中身そのものが変質していた。本来の目的だったAI視察は、結果的に半日で終わった。

 しかし振り返ってみると、Expo会場の熱気も、束草の88焼き魚横丁の煙も、大浦港の夕陽も、朴教授との焼肉の夜も、ヒノキ蒸籠の力技も、すべて地続きの「韓国」として見えてきた気がする。AI展示会場も漁港の食堂も、根っこにある熱量と雑さと純情は、案外同じなのかもしれない。

 整然とした視察計画など最初から存在しなかった。しかし、あれこれ脱線し、寄り道し、本来の目的から外れたからこそ、逆に韓国という国の温度や空気が見えてきた部分もあった。そうやって、自分の本末転倒を正当化し始めた私自身が、この旅で一番「雑」な存在だったのかもしれない。

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