日本のサービス業に異変、低価格低賃金の悪魔スパイラル

 日本のサービス業、いわゆる「おもてなし」がお金につながっているのか。

 昨日の記事にコメントをいただいた――。「昔はそれ(サービス品質)を企業が評価してお金を出していたわけだが、サービス業の低賃金化によって企業はお金を出さなくなった。サービスの質は、社会全体のモラルに支えられているから、給料が下がったからと言って、すぐに落ちていくものではないけれども、徐々に落ちていき、失われたサービスの質を再び元の水準まで戻すのは容易なことではないだろう。産業革命後も、低賃金化が著しく進んだ結果、モラルの荒廃がひどくなって慌てて労働環境の改善が行われたそうだから、歴史は繰り返すということだろうか」

 大変鋭いご指摘である。私の考えからいくと、「日本のサービス業」という一括りでなく、セグメンテーション(市場細分化)で論じる必要がある。

 まず、ハイエンドと分類されるいわゆる一流あるいは超一流サービスの世界は昔も今も変わらず、地球上においてもトップクラスを維持しているといえよう。むしろ日常的に露出度があまり大きくなく、語られることもそう頻繁ではない。

 次に、これまでの中産階級、マス層向けのサービス。このミドル・カテゴリーに大きな異変が生じている。結果論的にいえば、ミドルのローエンド化が進み、ローエンドの肥大化とミドルの空洞化が生じている現象だ。日常的に接する機会の多いサービスであるだけに、消費者層としてのわれわれももっとも敏感に感じたのではないか。

 サービスの品質は、マニュアルとモラルの二輪で支えられているのに、後者の歪みによって全体的バランスが崩れて行くのである。サービス提供者のモラル欠落は多様な要素に起因する。雇用形態の流動化(非正規雇用)と労働対価の評価不足つまり低賃金化がその主因ではないかと思われる。

 低賃金といえば企業や資本家の搾取だ。そう短絡に断定してはいけない。よく見ると低価格がその原因になっていたりする。経営赤字化の回避や利益確保のために人員の削減、一人当たりの労働量や勤務時間の引上げ、それに見合わない低賃金の支給・・・、こうして悪魔のスパイラルに陥っていく。

 サービススタッフは一応笑顔を浮かべる。が、その笑顔はモラルに起源する有機質的なものか、それとも単なるマニュアルの実行に基づく無機質なものか、消費者には敏感に感じ取られる。クレームにも一応謝るが、それが「すみません」の繰り返しに終始するのもマニュアル通りの実行に過ぎず、時には無意識的に弁解も交えられたりする。モラルに基づく有機質的なサービスを提供するには、サービス提供者自身の余裕が必要だ。いまはその余裕が失われつつある。

 低価格が賃金を不当に押し下げている。とはいっても価格を引き上げられない。多くの消費者が低価格を求めているからだ。この種の連鎖的問題はこれ以上展開すると収拾がつかなくなるので、このへんで打ち切ることにしよう。もちろん、抜本的な解決の糸口が見つかっていない、というのが現状ではないだろうか。

 

タグ:

コメント: 日本のサービス業に異変、低価格低賃金の悪魔スパイラル

  1. 申し訳ありません。言葉が強すぎたかもしれません。私は「打倒資本主義」は求めているわけではありません。言葉通り、「低賃金化は資本主義の必然の結果」だけの意味です。資本主義はそれが正しく(?)動けば、低賃金化・格差を招き、サービス・モラルの荒廃をもたらすと理解しています。

    現在は低賃金で働いている人たちも子供時代は、十分な教育を受けていた人たちがそれなりの割合をして占めています。また、両親の家に住むなどして一定水準の生活が保てている人もいることでしょう。しかし、さらに一世代経てば、そうしたこともできなくなり、サービス・モラルの荒廃は取り返しのつかないレベルまで落ち込むと思われます。そして、現社会への不満がそこかしこで爆発するかもしれませんね。

    そうしないためには、資本主義の原理に任せず、労働環境の改善、低賃金化の抑制等を政府なり、団体・組織なり、企業自身なりが積極的に進めていく必要があるでしょう。自己責任論では、この問題は解決しないことは産業革命後の歴史が証明済みのようです。

    1. 橋本さん、趣旨は理解しました。ただコメントの最後の部分、市場原理への介入について、これはもうさんざん国でなく世界を挙げて議論されてきた課題で、いまだに解決のめどが立っていません。それが私が本稿で議論の延長を止めた理由の一つでもある。最後に繰り返しますが、結果的に「自己責任論」はすでに「論」を超えて「現象」になっていることです。

  2. *低価格が賃金を不当に押し下げている。とはいっても価格を引き上げられない。多くの消費者が低価格を求めているからだ。

    こう書くと、賃金を押し下げている原因が企業や資本家ではなく、消費者にあるような印象を与える。

    企業は、消費者が低価格を求めているから、低価格で売るのか?違う。利潤を最大化できると考えるから、低価格で売るのだろう(もちろん、もろくみ外れて、最大化できない場合もある)。

    高価格で売ったほうが利潤を最大化できる(と思えば)のであれば、企業はもちろんそうする。多くのブランド品や高級品がそうだ。

    利潤を最大化を追及するのが資本主義の最大の特質であって、低賃金化は資本主義の必然の結果だろう。その理由は決して消費者の責任に帰すものではないはずだ。

    1. 橋本さん、消費者の責任など一言も言っていませんよ。マーケットのセグメンテーションと冒頭から言っています。「低賃金化は資本主義の必然の結果」とおっしゃるのですが、そういう部分は確かにあります。では、高賃金化をもたらすのが何主義でしょうね。それがあったら、私も「打倒資本主義」を連呼します。

Comments are closed.