権力と戦うか、自惚れする自分と戦うか

 「権力と戦う」と、自惚れする人がいる。なかなか不思議なものだ。「悪と戦う」ならまだしも理解できるが、「権力」=「悪」なのだろうか。もし「権力」が無条件に悪であれば、地球上の権力を抹殺するべきであって、単なる「戦う」だけでは全く不十分であろう。

 「権力」とは何か。他人を支配し、服従させる力。組織や富や武力などを背景として、支配者が被支配者に加える強制力である。ここまでいうと、個体の自由を求める上で、権力を排除することが善化されてしまう。しかしながら、われわれが「権力」によってどのような恩恵を受けているかを考えたことはあるのか。

 生命や財産の安全、そして自由をまさに「権力」によって守られているという現実がある。何よりも、「権力と戦う」など堂々と言えるという自由も民主主義国家の「権力」によって守られている現実がある。そうした現実を無視して、「権力と戦う」を叫ぶのが自惚れにほかならない。

 国家権力などといった次元ではなしに、私はサラリーマン時代に「会社と戦う」という自惚れ状態に陥った時期があった。支配すると支配されるという関係からすれば、会社という組織にも「権力」がつきまとう。簡単にいうと、自分の思い通りにいかないときに、「被支配」の苦痛を味わう瞬間でもある。そこで、現実を変えようと試みる。

 「会社を変えるか、君自分を変えるか。よく考えたほうがいい」と、私は上司に一蹴された。その一蹴には今でも感謝している。「権力と戦う」というがまったく自惚れである。そして、人間はまず「自惚れと戦う」のが先決だと、私は悟った。

 人間の最大の敵は自分だ。特に自惚れする自分が権力より、はるかに大きな敵である。