3階建®/Three-Tier™人事制度は、立花聡が独創的に考案した人事制度です。
市場か共同体かという誤った問い
ジョブ型かメンバーシップ型か。この問いはしばしば二者択一で語られる。しかしAI時代において、その問い自体が設計不全である。市場を全面導入すれば共同体は壊れる。共同体が壊れた組織は日本型DNAを失う。一方で、共同体の内部調整を維持すれば競争力を失う。どちらかを選べという発想そのものが、問題を単純化しすぎている。
日本の議論に多いのは、善悪・是非・AかBかという二元論である。だが制度設計は思想闘争ではない。機能分解である。市場は善でも悪でもない。共同体もまた善悪の対象ではない。それぞれが異なる機能を持つ調整装置である。にもかかわらず、全面市場化か全面共同体維持かという極端な選択肢に議論を押し込めると、現実的な解は消える。
AIがもたらすのは、従来の連続的な能力差ではない。非連続的な格差である。20代が50代を凌駕し、一人が数十人分の付加価値を生む可能性がある。この差を従来の年功型横並び再分配で吸収すれば、企業収益は圧迫される。一方、その差を全面的に市場価格へ転化すれば、組織内部の信頼は崩れる。
だから問うべきは「市場か、共同体か」ではない。どの機能を市場に委ね、どの機能を共同体に残すかである。全面肯定でも全面否定でもなく、層別によるハイブリッド化である。
問題は「市場を入れるかどうか」ではない。市場をどの層に入れるかである。ここを誤ると、組織は分断か衰退のどちらかに向かう。二元論を捨て、構造を分解し、再構成する。そこからしか持続可能な制度は生まれない。以下に3階建®/Three-Tier™の構造を簡単に解説する。
T1:非市場領域――メンバーシップ・静態層としての固定費
第1階層(Tier1 – T1)は、属人的雇用関係に基づく基本保障である。これは非市場領域である。生活基盤、組織への帰属、長期的信頼。この層は価格変動から切り離されるべきである。3階建®/Three-Tier™の中で唯一、原則として変動させない「静態層」である。
T1は言い換えれば「メンバーシップ層」である。職務ではなく、人に紐づく。短期的な成果や市況の変動で上下させない。T2・T3が変動費的性格を持つのに対し、T1は明確な固定費層である。業績が良くても急に増やさない。悪くても原則として急に減らさない。この「動かさない」という静態性こそがT1の本質である。固定費は重荷ではない。組織の重心である。ここが揺らげば、全体は安定しない。
日本型組織の強みは、長期的な技能蓄積と暗黙知の共有にある。危機時にも崩れにくいのは、この基礎安定があるからだ。T1を全面市場化すれば、短期成果主義が蔓延し、協働は崩れる。横の連帯が失われ、内部の情報共有は細る。市場効率は上がっても、組織能力は下がる。欧米・ローカル企業と競争するうえで、日本企業ならではの強みは、この静態層の存在にある。
T2は役割価値に応じて上下する(時限付き)準動態層、T3は成果に応じて大きく振れる動態層である。だからこそ、T1が安定していることに意味がある。静態層があるから、動態層が機能する。T1が曖昧なままT3だけを拡大すれば、組織は常時価格競争状態に置かれ、心理的不安定が広がる。
したがってT1は守る。最低保障を明確にし、生活基盤を安定させる。この安定があるからこそ、上位層で市場を受け止めることができる。市場の荒波に直接さらされるのではなく、基礎を固定したうえで変動を吸収する構造である。
この設計思想は、AI時代に議論されるベーシックインカムと通底する。すべてを競争に委ねるのではなく、基礎部分を固定し、その上で所在位置(職位)を決め、能力差や成果を評価するという発想である。T1は企業内部における基礎所得的役割を担う。ここを明確化することが、ハイブリッド型三層構造の出発点となる。
T2:二次市場――ジョブ・(時限付き)準動態層としての準変動費
第2階層(Tier 2 – T2)は、特定職位・役割に対する給付である。T1が人に紐づく静態層であるのに対し、T2は「ジョブ層」である。人ではなく、担っている役割に紐づく。ここから初めて「動き」が入る。
T2は(時限付き)準動態層である。ただしT3のような瞬間的変動ではない。任期付きであり、一定期間ごとに見直される。職位が上がれば給付は増え、任期が終われば再評価される。役割が消滅すればT2はリセットされる。ここでは「会社への帰属」ではなく「役割価値」が基準となる。
コスト構造で言えば、T2は準変動費層である。業績連動で毎年激しく上下するわけではないが、定期的な見直し・リセットが前提となる。固定ではない。だが完全変動でもない。この中間的性質こそがT2の機能である。
ここは完全市場ではないが、外部相場を参照する二次市場である。外部で同等ポジションがどの水準かを無視しない。だが外部価格をそのまま機械的に持ち込むわけでもない。企業内部の戦略、組織構造、責任範囲を加味して調整する。
T1が共同体の重心であるなら、T2は市場と共同体の接点である。T3が一次市場の荒波を受け止める最前線であるのに対し、T2はその手前で圧力を吸収する緩衝帯である。役割単位で価格を動かすことで、企業は資源配分を機動的に調整できる。
T2がなければどうなるか。T1を直接動かすか、T3に過度な負担をかけるしかない。前者は共同体を壊し、後者は格差を過激化させる。だからT2は必要である。静態層(T1)と動態層(T3)のあいだに、定期見直しを前提とした準動態的ジョブ層を置く。この層別こそが、ハイブリッド構造を成立させる。
T3:一次市場――成果連動・動態層としての完全変動費
第3階層(Tier 3 – T3)は、成果と付加価値創出に対する給付である。T1が人に紐づく静態層、T2が役割に紐づく準動態層であるのに対し、T3は明確な「成果層」である。ここでは人でも役割でもなく、創出された価値そのものが基準となる。
T3は動態層である。任期による見直しではなく、実際の成果に応じて増減する。固定的枠組みは持たない。業績が伸びれば拡大し、成果が出なければ縮小する。場合によっては「激動」もあり得る。動くこと自体が制度目的であり、動かさない前提は存在しない。
コスト構造で言えば、T3は完全変動費層である。売上や利益、付加価値創出と直接連動し、企業の収益構造と同じ方向に振れる。T1が業績悪化時でも原則維持される固定費層であるのに対し、T3は企業の実力をそのまま映す鏡である。
T3は一次市場に連動する。外部市場で評価される能力・成果水準と無関係ではいられない。AIを使いこなし、非連続的な付加価値を生む人材は外部でも高く評価される。その市場価格を一定程度受け止めなければ、流出は止まらない。
ただしT3は単なる業績連動ボーナスではない。市場が不況であっても、会社全体の業績が一時的に低迷していても、個人として明確な成果や能力優位があれば、この層でリテンションを積み上げることができる。T1が人前提、T2が役割前提であるのに対し、T3は純粋に価値創出への対価である。
したがって、T2を持たないスペシャリストやジュニア層であっても、突出した成果を出していればT3で相当のインセンティブを付与できる。役職がないから報われないという構造を断ち切る装置である。年齢や階層と逆行する評価も制度的に許容する。20代であっても50代管理職を超える付加価値を創出すれば、その差をT3で吸収する。逆に肩書きT2があっても成果が伴わなければ積み上がらず、T2もその状況次第で定期的にリセットされる。
T3は市場の荒波を受け止める最前線であると同時に、組織内部の非連続的格差を制度的に処理する装置である。ここがなければ才能は外部市場に流出するか、内部で不満を蓄積する。
しかしT3だけを肥大化させれば、T1とT2の安定基盤が侵食され、組織は常時競争状態に陥る。だからこそ三層である。T1は静態の基礎、T2は役割調整の準動態、T3は成果連動の動態。この三層を明確に分離することで、固定費と変動費、市場と共同体を同一構造の中に共存させることができる。3階建®/Three-Tier™の本質は、全面市場化でも全面共同体維持でもない。市場の力をT3に集中させ、T2で吸収し、T1で支えるという層別設計にある。
なぜ層別しなければ崩壊するのか
全面市場化は共同体を破壊する。全面内部調整は競争力を破壊する。AI時代は、非連続的な生産性格差を前提とする以上、どちらの極端も持続しない。市場を拒めば才能が流出し、市場に全面委ねれば組織が分断する。問題は市場の是非ではない。市場の力をどこに置くかである。
T1で安定を守り、T2で役割価値を定期的に調整し、T3で非連続的格差を吸収する。この三層が揃って初めて、市場と共同体は同一組織内で共存できる。3階建®/Three-Tier™は市場を導入する制度ではない。市場を分解する制度である。一次市場の圧力はT3に集中させ、T2で緩衝し、T1で支える。価格変動を全面に拡散させない設計である。
層別しなければ何が起きるか。T1を動かせば信頼が崩れ、T3を抑えれば人材が離脱する。T2を曖昧にすれば役割と処遇の整合が崩れる。結果として、共同体も競争力も同時に失う。AI時代に必要なのは制度の破壊ではない。制度の再設計である。全面否定でも全面肯定でもなく、機能を分けて再構築する。層別こそが、崩壊を回避する唯一の方法である。
3階建®/Three-Tier™は、2007年から中国・アジア地域で大手を中心に90社以上の日本・日系企業に導入・運用されています。豊富な導入実績を有しています。3階建®は、日本国経済産業省特許庁および中華人民共和国国家工商行政管理総局商標局より正式に認可され、商標登録されています。
3階建®/Three-Tier™の構築・導入についてのお問い合わせ・ご相談および資料お取り寄せは、ERIS 事務局までお願いいたします。
商標:3階建
登録日:平成30(2018年)年4月13日
登録番号:第6035981号
区分:第9類、第16類、第35類
商標:3階建
登録日:2015年12月7日
登録番号:第15525986号
国際分類:第35類




