<前回>では、顧客企業への対外的守秘義務について書いたが、では、顧客企業内部での守秘義務はどうだろう。
当然、人事関連のコンサルティングの情報連携について、顧客社内でも、人事部責任者(人事部長など)やトップマネジメント(総経理)ら一部の方に限定している。そのほかの顧客社内に対して、私たちコンサルタントは厳格な守秘義務が課されている。しかし、たとえば中国運営管轄本部(ホールディングスなど)や日本本社管理部、海外本部、中国室などに対して、連携を取るかどうか、それは顧客企業内部の組織命令系統、レポートライン次第だ。
通常、顧客企業から顧客社内のコンサル案件連携関係者名簿を提示、指示していただくのが当社の標準業務フローである。そのような特別指示がなければ、当社は日常の窓口になっている人事関連責任者(複数もありえる)向けに報告することにしている。
今回、苦情がきた某大手A日系企業では、中国管轄総本部が日常の窓口になっている。現地法人からの依頼案件でも、特段と連携限定の指示がないため、当社内部規定に従って中国管轄総本部にもCC付けで送付した。
A日系企業現地法人の総経理からは、「うちは、独立現地法人で、すべてのことは社内マターであり、中国総本部に余計なCCとは何事だ」と、大きな怒りを買った。
社内の問題は社内で解決し、なるべく上層部に迷惑をかけない意味では、その通りだと思う。また、独立法人は法的にも確かにその通りだ。ただし、私が「ずさん」と指摘した部分は、誠に「ずさん」であり、同A社グループの他の中国国内現地法人(複数)にも同様な問題ないし「ずさん」な状況が存在している可能性が大である。中国管轄総本部を通し、至急グループ内で一斉点検を行い、早急な問題解決、コンプライアンス作業に取り掛かるよう提言しようと考えたのだ。
私は、現地法人の総経理に次のように立場を表明し、返信した(抜粋)。
「Aという会社グループを、あくまでも一つの会社として、私は考えておりました。いまでも、この考え方は変わりません。Aという会社の全体的利益を考えて誠心誠意に業務を遂行するのが、私どもの理念です。その上で、理念の相違があれば、今回の取引を最後にしていただいて結構です」
現地法人の総経理として、管理責任を意識するうえで法的現地法人での管理権を強調する立場も、私は十分に理解できる。一方、社内・グループ内の情報共有、問題意識共有はもはや今の会社経営のコモンセンスだと、私は理解している。そこで、一現地法人の総経理とコンサルタントとが、考え方の上での隔たりが生じる。
私は自分の責務を見つめて、信念を曲げて商売する気になれない。このように、「NO」と、顧客に突きつけることは何も今回が初めてではない。大きな枠組みでいう会社の全体利益は必ずしも、各部門、社内各利益団体とすべてベクトルが同じ方法に指しているわけではないし、それらを旨く調整していくのもコンサルタントの仕事のうちだ。もちろん、利害関係の調整の過程には、いろんな意味で不快や不満に思われる場面もあるだろう。一一気にしないような鈍感さもコンサルタントの必須条件だし、ときには「NO」を押し付け、商売を断念するほどの決断も必要だ。私個人への恨みがあっても良いと思う。私は気にしない。私たちの会社は、極小の零細で、大手企業の背景もない。むしろ、逆にそれで良心で商売をやっていこうと雑念を取り払う余地を持たされた。
しばらく時間がたって、現地法人の総経理から、「継続取引」を求める電子メールが来た。少しでも、私の主張に賛同していただいたようで、心から嬉しく思った。