引越しの荷物整理がいよいよ終盤に差し掛かる。
古い名刺ほど思い出を蘇らせるものはない。90年代上海、香港駐在時代の顧客名刺には、商号がすでに消え去って久しい日本の銀行名が鮮明に刷り込まれていた。
A支店長やB支店長代理、C経理やD室長・・・懐かしいお客様の顔が一つ一つ浮かび上がる。あのとき、仕事柄、大手都銀をはじめとする金融機関との付き合いがメインだったが、いまはむしろ金融機関と無縁の世界に入った。
ロイター情報サービス部門のマネージャーとして、私は当時中国、東アジア日系市場を担当していた。金融情報を中心としたコンテンツの買い手は、大手銀行や証券会社のディーリングルーム、一部商社(為替予約中心)、商品先物系だが、大多数の進出日系企業には売り込めなかった。売り込もうとして、非金融系の日本語経済情報商品をパッケージして頑張っては見たが、奏功しなかった。商品が高額のうえ、コンテンツの内容にミスマッチがあった。
「中国で困っているのが、人事や労務などの実務。問題が山積で、マクロ経済情報ばっかり読んでも問題一つ解決にならない」。多くの非金融日系企業からの声だった。
その当時の日系企業の不満とニーズが、いま私のビジネスの源泉になっているのである。