ベトナム戦争終結40周年と安倍首相演説、そしてヘーゲルの弁証法

 2015年4月30日。サイゴン陥落、ベトナム戦争終結40周年。ある意味で世界一の大国アメリカが敗戦した日ともいえよう。

 元米国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏はその著書「外交」(下巻1996年)でアメリカの敗因をこう分析した。「ベトナムという儒教社会が比較的容易に米国型民主主義に変貌する誤算をした」。そして、40年後の今日、ベトナムはかつて共産主義のイデオロギーを共有する戦友だった中国と喧嘩し、対中けん制のために40年前の敵だったアメリカと手を組もうとしている。

 皮肉なことに、この同じ日に、先の大戦でアメリカに敗戦した日本国の首相が米上下両院合同会議に迎えられ演説し、これもかつて不倶戴天の敵国であったアメリカとの強き同盟関係をアピールするものだった。いうまでもなく、これは対中警戒感を共有しての同盟強化にほかならない。

 対立と協力。一見矛盾する二つの側面であるが、時間軸に沿った展開で本質的な変化(統合)を見せてくれている。まさにヘーゲルの弁証法によって裏付けられるものであった。

 ある命題(テーゼ、正命題)と、それと矛盾するもしくはそれを否定する反対の命題(アンチテーゼ、反対命題)、そしてそれらを本質的に統合した命題(ジンテーゼ、統合命題)がヘーゲルの弁証法の三要素を構成する。自己矛盾や自己対立、そこから生まれる相互媒介の展開である。つまり、あるひとつの命題とその反命題との二つの相反する命題を、アウフヘーベン(aufheben、止揚、揚棄)を経て、互いに否定しつつもあるいは「否定の否定」により相互生かし合い統合し、より高次元の段階である総合命題(ジンテーゼ)を導いてゆく。

 その展開の裏には物事の本質が見えてくる。キッシンジャー氏が指摘する「儒教社会に負けた米国型民主主義」という疑似本質が一表象に過ぎないことに気付く。イデオロギーを超越した次元にある国益や個益はある普遍要素として歴史的時間軸を貫くものである。これならば、すべての事象が解釈できるようになる。

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