強さの請求書、安全保障と対中対立が家計を焼くまで

 私はサラリーマン出身だ。毎月ほぼ固定の給料で暮らす庶民にとって、スーパーの値札は思想でも世論調査でもない。即日反映される現実だ。キャベツ、米、卵、電気代。ここが上がれば、その月の生活は終わる。

 高市政治の語りは、国家、安全保障、覚悟といった長期・抽象・非家計の言葉が多い。一方、値札は目先だ。国家を名乗るなら、まず値札を下げる、もしくは上げないことだ。調達を安定させ、摩擦を避け、金利と円安を抑える。これができて初めて国家の話をしていい。

 対中関係悪化はすでに実体経済に入り始めている。仮にレアアース禁輸が1年続けば、実質GDPは約7兆円減る。家電、自動車、半導体、精密機器、すべてに波及する。これは外交姿勢の問題ではない。算数の話だ。

 家計への影響はこうだ。まず値札が上がる。代替調達コストが価格に転嫁される。次に雇用と賃金。残業減、賞与圧縮、下請け単価引き下げ。実質賃金はさらに削られる。さらに固定費。電気代、ガス代、保険料、住宅ローンがじわじわ重くなる。最後に安心感が消え、節約モードが常態化する。

 では、具体的にいくらかかるのか。中国と対立し、レアアース遮断とサプライチェーン再建を行った場合、4人家族の実質負担は保守的に見て約800〜1,000万円規模になる。税でも一括請求でもない。値札、光熱費、賃金低下として10年以上かけて静かに回収される。家計は理由が分からないまま貧しくなる。

 韜光養晦という言葉がある。弱いうちは我慢し、目立たず、まず稼ぐ。強さは後回し。これは卑屈ではない。順番の戦略だ。今の日本は逆をやっている。弱っているのに光を放とうとし、そのツケを国民生活に回している。

 強さは宣言ではなく結果だ。結果が伴わない宣言は虚勢であり、虚勢は市場と家計を燃やす。問題は戦争ではない。火事だ。燃えるのは前線ではなく、倉庫であり、家計であり、庶民の糧である。

 値札を見ない政治は、庶民を見ていない。家が壊れても国家が立つことはない。国家を語る資格があるのは、庶民の生活を守った政治だけだ。

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