年頭のご挨拶~GDPの歪みと2010年の中国

 新年あけましておめでとうございます。

 旧年中に皆様から賜りましたご支援、ご厚情に対し、深く感謝申し上げますとともに、新しい年の門出にあたり、ご挨拶申し上げます。
 
 新年2010年は、中国経済の回復基調は確固たるものになるでしょう。中国の繁栄再来を謳歌するには、時期尚早です。景気刺激策は主にインフラ・設備投資に投じられ、経済成長のカンフル剤にはなりましたが、いよいよその息切れを懸念せずにいられなくなりました。中国の経済紙をめくれば、不動産や株式市場の報道がやたらと目に付きます。賭け事好きは必ずしも悪いことではありませんが、不動産や株で資産を膨らませる情熱には、いつか爆発する時限爆弾はつき物です。

 「中国製造」から「中国創造」への転換が叫ばれて久しいが、実効は一向に見られません。足を地面にしっかりついて地道な努力を払ってものづくりに励む人よりも、一獲千金に飛びつく人は中国にまだまだ多い。

 GDPの成長を追っかける中国ですが、GDPは国民の幸福度にリンクされているのでしょうか。GDPの1%=国民の幸福度1%であれば、中国は間違いなく世界一国民が幸せな国になっているでしょう。残念ながら、そうではなさそうです。GDP成長の大部分を占めるハコモノの建設で、国民の平均幸福度が決してGDPに連動して上昇することはありえません。

 橋を架けましょう。建設工事はGDPに計上します。不良工事で今度橋が崩れ落ちる。撤去工事もGDPに計上します。さらに、今度新しく橋を架ける。同じ橋ですが、いよいよ3度目のGDP計上になります。これで国民は幸せになれますか。

 GDPの健全な成長には、内需のけん引がかかせません。内需といえば、国民が安心して金を使える環境を整える必要があります。まず、使えるお金が潤沢にあること、そして、雇用や生活(特に老後の生活)の先行きへの不安を取り除くことが欠かせません。中国のセーフティーネット(社会安全網)の整備が経済成長に対比して出遅れており、ある程度整えるまで時間がかかります。目先では、個人所得増に着目するほか道がありません。そのためには国民の所得分配構造の調整が国家経済政策の重点として位置付けられ、今度は、いよいよ民間企業の賃金制度にまで公権力が介入してきます。「賃金支払条例」など怪しげな名を冠した法令で、労働者の所得は果たして増えるのでしょうか。結果的に、労使ともに惨敗の結果になれば、最悪です。

 民主主義議会政治は素晴らしいと言いますが、致命傷は一つあります。それは、当局者は国家の長期戦略を考えないことです。20年先や30年先の国家像よりも、目先の参院選しか頭にないというどこかの国の政治家を目の当たりにして吐き気がします。選挙は先物ではないからです。では、中国は一党統治ですから、もう少し将来の国家戦略を立てられるかというと、ネックは地方政府にあります。冒頭で述べたGDPの問題もほとんど地方にあります。GDPが地方の役人の評価指標になっている以上、歪みの是正は困難でしょう。

 社会における様々な対立が激化しています。そして、その多くの対立は、労使関係に転化されています。コンプライアンス重視の企業ほど大きな痛手を被っています。また、この状況は当分改善される様子はありません。

 GDPの8%成長や万博開催で意気揚々となっている中国は、燦々たる日光を浴びながらも、至るところに影が目立っています。われわれ外資企業は、これらの影をきちんと見つめる必要があるでしょう。2010年は、そんな1年になりそうです。繁栄には混沌がつきものなのでしょうか。

立花 聡
2010年元旦

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