居てほしくない従業員と居てほしい従業員

 金曜日は、私のセミナーと重要な学会がぶつかってしまった。

 上海市労働・社会保障学会、上海市法学会、上海市弁護士協会主催の「労働契約法」学会があった。私の中国法博士コースの指導教授・董保華先生をはじめ、上海市高等裁判所の裁判官、労働法研究学者、労働法専門弁護士の発表があって、上海市の労働法専門家50名が集まった。

26082_2学会会場は、上海弁護士協会にあった

 朝から学会、午後からセミナーというきつい日程になった。中国法の学会に外国人の私が呼ばれるのが極めて異例といえる(対外交流や外国法、比較法の学会なら別だが)。董先生の好意による推薦には心から感謝する。これだけトップクラスの学会に出るのが、実は初めてで、緊張していた。

 取り上げられたテーマは、4つ。

(1)無固定期間労働契約
(2)辞職制限
(3)補償金・賠償金
(4)書面契約

 いずれも法学理論だけでなく、企業実務上でも関心度の高い問題ばかりだ。「労働契約法」といえば、終身雇用や解雇困難といったイメージが濃厚だが、実は優秀な従業員の定着と長期勤務にもかなりマイナス影響が出るだろうと、私が「辞職制度」のテーマに非常に興味を持っていた。

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 優秀な人材を長期勤務させるために、従来、契約期間中の辞職に違約金を設定し、従業員にペナルティーを課す手法が取られていたが、「労働契約法」がそれを禁止した。無固定期間契約だろうと、固定期間契約だろうと、企業に対する解雇制限で、従業員側には逆に辞職制限が緩和されたのだった。

 そこで、さらに問題が発生する。解雇制限の厳格化で、本来解雇すべきパフォーマンスの良くない従業員を解雇できなくなると、ぶら下がり組が社内に増える。それを目の当たりにして優秀な従業員は嫌気を指し、流出にさらに拍車がかかる。

 「居てほしくない従業員がいつまでも居座り、居てほしい従業員は流出する」、人間の体にたとえると、毒が溜まる一方で栄養が流出することになり、結果は想像するだけでぞっとする。

 会社の「ヒト」の問題が大きい。新陳代謝機能が正常に作動しないと、人事の営みはうまくいかなくなる。人事戦略全般の見直し、制度の構築、日本企業はどこまで真剣に取り組めるのか。いつまでも、安い人件費に目をつける「中国の時代」は、もう歴史になるだろう。中国人現地従業員にも人生がかかっている。日本人総経理は、3年5年で帰国するが、中国人従業員は一生なのだ。彼たちのキャリアを日本企業が真剣に考えてあげないと、全力を出し切って疾走してくれない。

 現状の日本企業を見て、まだまだ、楽観できる状態ではない。