日本総領事館の善意な愚挙、水戸黄門の印籠は役に立つか

 先日のセミナーで、「毎月36時間の残業時間を超過した場合、違法か合法」で議論になった。私が「違法」と指摘しているが、ある参加者の方は、「合法だ」、「大丈夫だ」と主張した。帰宅後、資料を調べると、興味深いのが見つかった。

 在広州日本国総領事館、広州日本商工会とジェトロ広州事務所の3者と広東省労働・社会保障庁との間で、2007年11月5日と2008年4月18日、2度にわたり、労働契約法の施行に伴う日系企業の実務問題について、意見交換が行われた。残業36時間問題も主な議題の一つであった。同総領事館ホームページに掲載の議事録を抜粋する。

 ≪出席者≫
  日本側: 吉田雅治・総領事、池田成昭・広州日本商工会会長ら
  中国側: 方潮貴・広東省労働及び社会保障庁長(2007年11月5日)
         劉友君・広東省労働及び社会保障庁長(2008年4月18日)

●第1回目意見交換(2007年11月5日)
http://www.guangzhou.cn.emb-japan.go.jp/basicinfo/ikenkokan/071122.html

 <日本側>: 現在施行されている残業時間を36時間以内とする規定につき、労働者側が36時間以上の残業を希望する場合があり、柔軟な運用をお願いしたい。

 <中国側>: 広東省には出稼ぎ労働者が多く、出稼ぎ労働者は残業代を多く稼ぎたいという傾向であることは承知している。1日数時間の残業、1ヶ月数十時間の残業であり、きちん残業代が支払われている場合には、労働及び社会保障部門としては問題視したり、処罰対象とすることはほとんどない。法律上は、たとえ超過残業時間が1時間であっても違法は違法ではあるが、労働及び社会保障部門としても人的能力に限りがあり、悪質な事例から重点的に取り締まり対象としている。ただし、労働者の健康管理には十分注意していただきたい。

(日経BP写真)
●第2回目意見交換(2008年4月18日)
http://www.guangzhou.cn.emb-japan.go.jp/basicinfo/080424.html

 <日本側>: 現在施行されている残業時間を36時間以内とする規定(労働法第41条)については、珠江デルタにある日系企業も遵守すべく努力はしているが、完全に遵守するには困難な面もある。省レベルの細則等で、36時間について柔軟な規定としていただくことは可能か。

 <中国側>: 36時間は、国が法律で定めたものであり、省レベルでこれより緩やか(例えば48時間)な規定を設けることはできない。特殊事情がある場合に、労働者の健康に影響がなく、労働者側の反対意見もなければ、1日の残業時間を3時間とすることは可能であるが、月合計36時間を超えてはならない。

 <日本側>: 例えば、月の残業時間が55時間であるが、きちんと残業手当を支払い、労働者側も残業につき同意していれば、労働社会保障部門として問題視はしないとの趣旨の説明が前回あったが、そのような理解で良いか。

 <中国側>: あくまで法律の規定は36時間が上限であり、法執行部門としては、手当が支払われており、労働者も同意していることを以て、法律の不履行を容認する理由とすることはできない。ただし、処分を行う段階においては、残業代の支払いや労働者側の希望の有無等の状況が考慮され、例えば、まったく残業代を支払っていないような企業に対しては、責任追及、処罰が重くなることはあり、逆であれば、行政指導で済まされることもあろう。

 <日本側>: 企業には繁忙期があり、月によっては残業時間を36時間以内に抑えることは困難な場合がある。1年合計の残業時間が432時間であれば、問題はないか。

 <中国側>: 法律の規定はあくまで月36時間である。1年の合計が432時間であっても、どこか1ヶ月の残業時間が36時間を超えれば、それは法律違反である。

★<立花聡のコメント> (顧客向けレポートに掲載)