創造と伝承、昆劇イベントのお知らせ

 数年前、当社の翻訳編集業務をやってくれた方から、久々にメールをもらった。日本に帰国して、いまは、日中間のカルチャーギャップをテーマにした、コミックエッセイ本の制作に励んでいるという。「文化の差異は悩み始めるとキリがないが、案外、クスッと笑ってしまえば、ブラックホールに落ち込まずに済むのではないか」と本人のコメントには、思わず納得。

28299_2昆劇「牡丹亭」(写真は主催・企画側提供)

 で、彼女が携わるもう一つのイベント企画を紹介する。11月11~12日に東京で行われる、「昆劇」公演だ(公演詳細)。

 私は、京劇よりも昆劇が好きだ。専門家でも何でもないが、ただ素直に好きだ、それだけのことだ。京劇よりも、昆劇がより繊細で、女性的という感じがする。演目の脚本も優雅で美しく、文学性がとても高い。唄いの文句は婉曲で、詩歌のように深みがある。唄い方は、まろやかで美しく、抑揚に満ち、緩やかに流れていく。聞いていると、中国古代のロマンがじん~と伝わってくる。

 中国国内でも下火になりつつある伝統文化の数々を目の当たりにして、残念でしかたない。GDPより、中国はもっと大切な文化財をたくさんもっている。うまく付加価値をつければよいのに、ビルや道路ばかり作って、廃水ばかり流しているのが誠に愚かだ。

 今の中国は、「創造」を最優先に掲げている。しかし、「創造」は、「蓄積」と「伝承」に基づくものだとは気づいていないようだ。文化産業の付加価値が高いが、長い歴史の伝承が求められる。その辺は、むしろ、戦略などを抜きにして、ただひたすらコツコツと蓄積していくことだ。その気持ちは、いまの中国も大多数の中国人も持っていない。焦りが目立っているし、文化人や学者の社会的地位も低すぎる。全体的に、国の文化に対する捉え方はゆがんでいる。とても、残念だ。

 「創造」の結果は、目に見える形で短期的に現れ、評価しやすく、政治的に利用されやすい。しかし、「伝承」の結果は、将来に向けて徐々に広範囲にわたって現れ、捕捉しにくいため、往々にして無視されてしまう。

 だから、民間レベルの努力、一つ一つ小さな努力を積み重ねることが大切だと思う。

 上記昆劇チケット申込ほか、お問い合わせにつきましては、企画・運営会社株式会社メディア新日中までお願いします。