起業独立体験談(5)~「性悪説」と「性善説」の関係

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 中国ビジネスといえば、スタンスは基本的に「性悪説」だ。私は堂々という。後ろめたさを感じない。ただ終始性悪説ではなく、スタートが性悪説でも、行くところ性善説にもっていくこともたくさんある。少し難解だが、簡単に説明する。

 数年前、私がハワイで休暇を取って、上海へ戻るときのことだった。ハワイの空港のセキュリティーチェックで何個かのスーツケースを全部開けさせられた。係官は、険悪な表情で一つ一つのスーツケースを、隅から隅までチェックした。私は潔癖症で、出発前夜きちんと荷造りしておいたケースがぐちゃぐちゃになって、機嫌が一気に悪くなった。せっかく、ハワイに来て休暇というのに、そこまで犯罪人扱いはないだろう・・・

 「グッド!大変迷惑をかけました。協力と忍耐に感謝します。また、合衆国へ。良い旅を」、検査を終了した係官は人が変わったかのように一転して、ハワイの太陽のような笑顔で握手まで求めてきた。

 「性悪説」から「性善説」に切り替えられた私は、一瞬、大きな感動を覚えた。彼は善良な市民を守るために職責を尽くしたのだ。

 中国で来て、中国人に騙されたといって、中国嫌いになった日本人は大勢いるが、そのほとんどが「性善説」から「性悪説」への転落だ。

 中国では、「人之初性本善」といって、人は本来善なりという「先天性善説」がある。私も賛成だ。しかし、「近朱者赤、近墨者黑」とセットで考えなければならない。朱砂(赤の顔料)に近づけば赤く、墨に近づけば黒くなる。後天的に人間は環境に影響され、変化するのだ。引き続き、「善」でい続ける者もいれば、「悪」へ変身する者もいる。

 「害人之心不可有、防人之心不可無」、中国のもう一つの俗語だ。他人を陥れようなどと考えてはならないが、他人から陥れられないよう警戒心を失ってはならない。簡単にいうと、「人を騙すな、人に騙されるな」だ。しかし、自分が人を騙さないからといって、人も自分を騙さないだろうという能天気な「性善説」は愚かだろう。

 「防人」(ファンレン)、中国人の間でよく聞かれる言葉だ。中国人は、家族や特定利益の小集団以外の人には、基本的に「防御」の姿勢を崩さない。それは紛れもなく「性悪説」に基づいている。とはいっても、「性悪説」に凍り付いていれば何もできなくなってしまう。だから、きちんと自分で観察して判断する必要がある。それを怠ってはならない。

 結論その五、まず「性悪説」だ。「性善説」は「性悪説」で守れ!

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