起業独立体験談(6)~取引コストは忘れていないか?

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 企業の中国進出なら、必ず「F/S」という文書を作らなければならない。「F/S」とは、フィージビリティ・スタディ(Feasibility Study)のことで、要は「事業可能性調査」というべきだろうか。このF/Sは、中国現地法人などの設立認可申請に、官庁に提出する書類の一つである。この官製版のF/Sは、雛形様式があって、数字合わせで適当に記入しても役所に文句を言われることはない。しかし、企業は本命のF/Sも作らなければならない。一番大事なところは、現地事業にいくらコストがかかるのか、いくら売り上げが立つのか、そして、いくら利益が上がるのかである。大手企業だろうと、個人の起業だろうと、財務計画を立てることは欠かせない。そのコスト欄に、土地代や工場建設費、設備、事務所賃貸料、人件費などなどと綴られているが、何か抜けていないか?そう、「取引コスト」!それを入れ忘れてはならない。

 某部品を中国で調達するとしよう。その部品を調達するためのコストは、部品の価格だけではない。品質が良くて価格の安い供給先を探すには、コストがかかる。業者と交渉するには、コストがかかる。取引決定となって弁護士に契約作成や審査を依頼するには、コストがかかる。検品には、コストがかかる。不良品の返品には、コストがかかる・・・このように様々な取引コストがかかっている。

 調達以外に、行政との付き合いも、販売も、コンプライアンスも、人事労務も、各方面で取引コストがかかる。法律の運用がころころ変わったりして完全法治国家ではないため、余計高額な取引コストがかかるのだ。取引コストを私なりに大きく分類すると、以下になる。

 「探索コスト」・・・情報収集、意思決定のためのコスト。
 「交渉コスト」・・・取引を成立させるためのコスト。
 「監督コスト」・・・契約を遵守させるためのコスト。
 「コンプライアンスコスト」・・・法令を遵守するためのコスト。
 「リスク管理コスト」・・・各種のリスクから会社を守るためのコスト。

 各社のF/Sをめくってみると、「販売管理費」の勘定科目があっても、「取引コスト」という属性記載は見当たらない。そこに大きな落とし穴がある。

 結論その六、取引コスト、特に中国特有の取引コストを必ず事業計画に折り込め。

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