悪性がんとの向き合い方、愛犬目線の尊さ

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 悪いニュースが続く。我が家の長女ハナ(野良収容犬・推定12歳)は先日、舌に小さなできものが見つかり、切除して検査したところ、メラノーマ(悪性黒色腫)であることが判明した。これは偶然にも先月亡くなったゴン太と同じがんだった。伝染しない病気なので、本当に偶然だった。

 メラノーマは高齢犬に発症頻度の高い悪性腫瘍で、その多くが口腔内粘膜に発症するだけにたちが悪く、次第にリンパ節や肺に転移する。ゴン太の場合、歯根膿瘍と思われ、口腔の処置をしてメラノーマだったことが判明した際、すでにステージ3に進行していた。今回のハナは、ステージ1という早期だった。

 ただまったく楽観できない状況だ。メラノーマは悪性度の非常に高いがんであり、早いスピードで増殖・転移する。

 第1の選択肢は、舌の切除。見つかったできものが切除されたのだが、がん細胞は残っていると思われる。できることは、まず全身麻酔してCT検査を行う。これもハナにとって直近3度目の麻酔になり、リスクが伴う。この関門を乗り越え、CTで正確にがんの転移がないことが判明できた場合、舌の切除を行う。

 周辺にがん細胞が浸潤しているため、かなり広範囲にわたってマージンを取って、舌のほとんど(3分の2)を切除する必要がある。それでも、果たしてメラノーマを完全切除できるかは、保証がない。理論上、完全切除できた場合、再発しない完治となる。ただし、術後の1か月は胃カテーテルをつけることになり、舌喪失による苦痛や生活品質の低下は、生涯残るだろう。

 メラノーマの治療において、手術は最も完治の可能性が高い治療法とされているが、手術によってすべてのがん細胞を取り除くことができなければ、残ったがん細胞が再び増殖して再発する可能性が高い。

 第2の選択肢は、抗がん剤治療。ただ調べると、メラノーマに対して、抗がん剤はあまり反応しないことがわかった。その代わりに嘔吐や下痢などの副作用が伴い、愛犬の生活品質の低下は避けられない。そのうえ、抗がん剤は人間や他のペットに対しても有害な場合があり、特に投与中の犬の排泄物には安全上のリスクがあるとされている。うちは、人間だけでなく、同居している犬・猫も複数いる。

 第3の選択肢は、特定の免疫ワクチンの注射によって、免疫・寛解誘導を行う(免疫誘導療法)。そもそもがんの発症、その大きな理由の1つは、免疫力低下にある。本来がん細胞は動物の体内で毎日発生しているため、いつでも存在している。しかし、がんにまで発展しないのは、体に備わる「免疫機能」が毎日がんを攻撃し倒してくれているからだ。このような免疫の働きのおかげで、人間や動物は、簡単にがん発症せず健康でいられるのである。

 個体差もあることから、免疫療法は必ずしも効果が期待できる療法とは言えないが、副作用がほとんどなく、QOL(Quality of life)の意味において積極的な意義を見出せる。

 もっとも大切なのは、動物の目線である。人間なら、患者本人の人生観や価値観で治療法の選択にあたってしっかりと個人それぞれの意思決定ができるのだが、動物はそれができない。そこでわれわれ人間が代わりに意思決定を行う際に、どうしても人間目線・人間感覚が先行してしまう。

 延命治療もその1つである。「あらゆる手を尽くした。もう悔いはない」という人間の「自己納得」があっても、それは果たして愛犬が望んだ形なのか。そこに尽きる。まだ最終的な結論を出せないが、愛犬目線の尊さを意識しながら、ハナと対話を続けていきたいと思う。

【2024年4月21日追記】

 ハナの治療方針について、本日午後、1時間半にわたり専門家会議をZoomで行い、以下の結論に達した――。

 諸事情を考えて、抗がん剤治療案を完全排除する。すでに着手した免疫誘導療法と並行し、まずは、マレーシアの某獣医によって独自開発された「冷凍凝固療法」(現在治験段階)の可能性を探る。それができない、また失敗した場合は、しかも転移がない場合、舌切除手術案を検討する。

 「冷凍凝固療法」とは、イボ治療によく使われる手法に似ている。超低温の液体窒素を該当部位に吹き付け、病巣を瞬間的に冷凍し、凍傷を起こして細胞・組織を壊す治療法であり、早期の局限がん治療に用いられる。短時間の小手術で、苦痛が少ない。治療を受けた部分の味覚神経が壊れるが、舌全体の味覚に大きな影響はないとされている。そもそも犬は嗅覚依存動物であるから、味覚の一部喪失は大した問題にならないという。

 早速、手配段取りに入った。時間との戦いだ。

【2024年4月22日追記】

 愛犬のがん治療で勉強しているが、人間も同じで、未承認治療法がある。安全性や有効性が科学的に立証されていない治療法という定義。しかし、一方、抗がん剤や放射線など、科学的に立証されたといえるのだろうか。奏功率が低く、副作用が大きく、QOLの著しい低下につながる治療法はどうだろうか。

 延命治療という意味で、人間の場合、親族が努力を尽くしたという使命感が患者にとって、果たして有意義なものかどうか。情報の非対称性、患者の利益と医療・製薬業界の利権の対立は看過できない。

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