流氷紀行(7)~雪中漫歩、知床と海南島の連想色々

<前回>

 知床は二度目の訪問だ。前回は羅臼で1泊のみだったが、今回はウトロ温泉で2連泊してゆっくりと雪を楽しむことにした。

33660_1ウトロの街に押し寄せる一面の流氷、オホーツク海が真っ白

 2月13日、流氷接岸3日目、快晴。10時過ぎに、宿泊先の知床プリンスホテル風なみ季を出発し、雪に覆われるウトロの町と一面と流氷が広がるオホーツク海を左手に、緩やかな上り坂の山道を走行する。

 20分ほどのドライブで到着したのは、知床財団が運営する知床自然センター。ここで、スタッフからの説明を受け、雪道散策コースを決めるわけだ。雪道散策といっても、ぶらぶらと歩くことはできない。雪の深い場所もあるので、長靴と雪専用のかんじきに履き替えなければならない。

33660_2「かんじき」とはこれ、雪歩きに必須

 「かんじき」という言葉は、初耳だ。漢字では、「樏」または「橇」と書き、伝統的な日本の履物で、主に雪上や氷上での走破性を高めるために、靴の下から着用する履物だ。

 靴一式をレンタルすると、個人情報の登録が始まる。予定帰着時刻を過ぎても帰ってこない場合、捜索や救助活動を開始するそうだ。コースを外れると雪の中で方向を見失うことがしばしば発生する。今回、私が選んだ「歩くスキーコース」は、景色のもっとも良い「フレペの滝コース」で、往復2キロ強で手軽なものだが、何しろ雪道でゆっくりと景色を楽しんで歩くと1時間半はかかる。出発は11時30分だから、余裕を持って13時30分の帰着で登録しておいた。

33660_3岬の断崖で餌を探すエゾ鹿
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 知床自然センターの裏手にある入り口でかんじきに履き替え、雪道を一歩二歩サクサクと歩き出す。最初は慣れないため歩き方がぎこちないが、百歩も歩けば、だいぶなれ、スピードもついてきた。

 「フレペの滝コース」とは、知床自然センターから海岸断崖上の展望台までのコース。知床自然センターからしばらくは明るい森の雪道を歩き、その先はだーと開けた雪原になっている。雪原にはエゾ鹿の姿が見られる。快晴の中、真っ白な知床連山の山並みをバックに、眼下に広がるオホーツク海を一面と覆う流氷を眺める。

 流氷にはたくさんの栄養分が含まれ、大量のプランクトンを運んでくる。そのため、小魚が集まり、さらに、それらを食べるサケなどの大きな魚が集まる。サケはやがて知床の川をのぼって産卵する。その卵は、今度ヒグマやオジロワシなどの動物のエサになる。そして、動物や鳥類のフンや死骸は大地にかえり、植物の栄養になり、植物が育ち、森となる。こうして、陸と海を一体化させた壮大な食物連鎖ができあがり、知床の自然を作り出している。

 知床の自然のメカニズムが評価され、2005年7月17日、世界自然遺産に登録された。それを契機に無節操な観光客誘致ではなく、むしろ、もっともっと、自然や生態に、最大な敬意を払わなければならない。

33660_4エゾ鹿との出会い
33660b_4知床連山をバックに、一面の大雪原

 ちょうど、私がこの知床に来ている時期に、中国・海南島の不動産相場が急騰している。海岸に林立する一流リゾートホテルは、何と1泊1万元を超えている。海南島行きの航空券では、ファーストクラスが満席で取れない、といった事態が発生している。中国中の金持ちやホットマネーが海南島に殺到している。誰から見ても、「バブル」であることは分かる。美しい海南島は、第二のドバイにならないよう、祈るのみだ。

 国務院が2009年12月31日付で「海南国際観光島の建設発展の推進に関する若干の意見」を公布した。環境・生態保全に関する内容は、極めて抽象的で4条にとどまっている。8割以上の内容は、「建設」「発展」である。「建設しながら、保全する」という美麗字句をどう具体化するか、それは地方の役人に一任してしまえば、結果が見えている。何よりも、「・・・建設発展の推進に関する意見」であって、「海南島自然生態保護法」ではないのである。

 海南島には素晴らしい自然資源がある。その資源をどう使うか、それを考えて決めるのが中国政府であって、中国国民である。自然・生態に敬意を払うのか、それを最大限に現金化するのか、経済学や政治学、社会学など異なる視点から異なる結論を得ることになろう。正解も不正解もない。ただ、損得は一定している。長い歴史の大河の先には、必ず証明される。これは、歴史学と哲学の観点である。

<次回>