食い倒れ済州島(4)~アワビ料理と済州島の海女たち

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 済州島といえば、アワビが有名。

79345_1アワビと牛肉の朝鮮人参煮込み(ホテルロッテ済州の韓国料理店「無窮花」)

 高級中華料理の「鮑翅」とは、アワビとフカヒレのことだ。昨今、環境保全の観点からサメの乱獲につながるフカヒレはいよいよ敬遠される存在となりつつある。あの名門ホテルの「ペニンシュラ」も今年からフカヒレ料理の提供を停止したというほど、グルメ党の肩身が狭くなる一方だ。

79345_2豪快なアワビ海鮮鍋
79345b_2繊細なアワビ粥

 フカヒレを割愛すると、残るのはアワビしかない。中華料理で食すアワビのほとんどが、乾貨(ガンフォー)だ。つまり、乾物のことである。一旦乾物にして、戻してから調理する。なぜ乾物かというと、中国語で「鮮」という旨みの成分が作られ、風味と味が素晴らしいものとなるからだ。 乾貨料理における料理人の腕は、戻し7割 調理3割といわれている。干鮑は戻しが失敗したら、手直しが効かないので、高価な食材が無駄になってしまう。香港の専門料理店では、戻し担当の専門職人がいるほどである。

 ここ済州島では、アワビはほとんどフレッシュのまま食す。刺身はもちろんのこと、アワビ粥、アワビ・海鮮鍋、アワビの煮込み料理など多彩な調理法が用いられている。

79345_3ふっくらと絶品の海鮮チヂミ
79345b_3地元の蜜柑マッコリと漢拏山焼酎

 絶品のアワビ料理に舌鼓を打ちながら、このアワビを捕ってくれたヘニョ(海女)たちへの感謝を忘れてはいけない。海底のアワビやウニを捕るために、数分息を止めながら水深10~20メートルまで潜る。水中呼吸装置は使わず、自分の息だけでのスキンダイビング(素潜り)は、遊びやスポーツとしてのスキューバダイビングとわけが違う。サンゴや熱帯魚の美しい姿もなく、雨も雪も風も構わず極寒のなかでも、数時間もかけ漁場を転々とし、荒波の水域を請け負っているのは、この海女たちである。

79345_479345b_4海女ではないが済州島の美しい女性たち(上=ホテルロッテ済州、下=済州新羅ホテル)

 「済州島の女性は強いですよ。特に年を取るにつれ、どんどん強くなります。済州島のオバサンと喧嘩したら絶対に負けますから」、運転手のキムさんは決して嘘を言っているのではない。これだけ過酷な仕事を一生かけてやっていると、誰もが強くなるものだ。

 しかし、海女の数が減っている。若い世代の女性たちは新たな価値観を持ち始め、洗練された都会的なライフスタイルを求めて島を離れていく。かつて高く尊敬されていた海女の職業は、先細りしているのだ。1960 年代の全盛期に3 万人以上もいた海女がいま、辛うじて 3000~5000人いるかどうか。しかも、そのほとんどが 60 才を超える高齢者である。

 海女業はいずれ歴史となってしまうのだろうか・・・

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