これからの世界、理文融合の「両刀使い」が最強に

 子女の教育進路を考える方へ。本稿は、非常に重要な参考材料となります。ぜひご一読ください。

 私は、マレーシアの大学に企業実務研修クラスを導入するにあたり、なぜ理工系の学生を主なターゲットにしているのか、その理由を述べたい。

 まず、私自身が大学では理系を専攻し、社会人になってから文系の仕事へと転向した経験を持つ。その際、それほど大きな困難を感じることはなかった。それどころか、理系と文系の両方の視点を持つことで、大きなメリットを得ている。実際、私は実務をやりながら法学と経営学の基礎を1年弱で習得した。論理的思考力を活用すれば、文系分野の学習は比較的スムーズに進められると実感している。

● 理文融合、「両刀使い」のほうが圧倒的に有利

 これからの時代を見据えた場合、大学での学び方として「理系か文系か」という二者択一よりも、「両刀使い(理文融合)」のほうが圧倒的に有利である。その理由を論理的に説明する。

 現代社会では、AI・デジタル技術の進化が加速し、単なる専門知識ではなく、異なる分野を横断的に理解し応用できる能力が求められている。

 理系の場合、AI・データサイエンス・エンジニアリング・バイオテクノロジーなど、技術分野の進歩が早く、数学・プログラミング・統計のスキルは必須。企業でも「データ駆動型経営」が進み、経営戦略の意思決定にもデータサイエンスが活用される。

 一方では、文系の場合、経済・法律・経営・社会学・哲学などの知識は、技術の社会実装・倫理的判断・政策立案・ビジネスモデル設計に不可欠だ。例えば、AI技術を開発するだけでなく、それを「どう使うか」「倫理的な課題は何か」「ビジネスにどう適用するか」を考える必要がある。

 理系×文系のシナジー効果は絶大だ。理系と文系の知識を組み合わせることで、以下のような強みが生まれる。

 まずは、技術とビジネスの橋渡しができ、相互乗り入れが可能になる。例えば、AI技術者(理系)はプログラムを書けるが、その技術を市場に投入し、ビジネスモデルに適用するには経営・法律・マーケティングの知識(文系)が必要。データサイエンティストが、統計・機械学習(理系)の知識だけでなく、経済・経営(文系)の視点も持つことで、企業の意思決定に貢献できる。

 次に、創造的な問題解決が可能になる。理系の論理的思考文系のクリティカルシンキングを組み合わせることで、より柔軟かつ創造的な問題解決ができる。例えば、環境問題では「技術革新(理系)」と「政策・社会設計(文系)」の両面からのアプローチが不可欠。

 さらに、新たなキャリアパスの開拓も可能になる。企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進む中で、「テクノロジーを理解し、ビジネスや社会に応用できる人材」が重宝される。例えば、「経済学+データ分析」「法学+AI倫理」「心理学+UXデザイン」など、従来の文理の枠を超えたキャリアが求められている。

 海外の大学(MIT・スタンフォードなど)では、すでに文理融合型のカリキュラムが主流になっている。「理系的な論理的思考」と「文系的な洞察力・判断力」を組み合わせることで、キャリアの選択肢が大幅に広がる。理文の二元論を超えて「両刀使い」が最強である。

● 「理系→文系」と「文系→理系」の難易度比較

 理系学生が文系を取り入れるよりも、文系学生が理系を取り入れるほうが相対的に難易度が高い。その理由を論理的に分析する。

 まず、文系の学習スタイルは、記述や議論、ケーススタディを通じた「解釈・分析」が重要。数学的な厳密性は必須ではなく、概念的な理解や経験則が通用する。しかし、理系の学習スタイルは、数学・物理・プログラミング・統計・工学などが中心であり、厳密なロジックや数式に基づいた「計算・実証」が必須である。

 次に、学習の移行のしやすさを見てみよう。「理系→文系」が、比較的容易。理系は数学や論理的思考が基盤にあるため、文系科目の概念理解は比較的スムーズ。例えば、経済学・経営学・法律・哲学などは、「数学的モデル」や「論理構成」が重要な分野も多く、理系的なアプローチでも適応しやすい。実際に、多くのエンジニアがMBA(経営学修士)を取得して経営に進むケースがある。

 これに対して、「文系→理系」は、相対的に難しい。数学・物理・プログラミング・統計などは、一からの学習が必要であり、短期間では習得しづらい。特に数学が苦手な文系学生にとって、「高校数学の復習」から始める必要がある場合が多い。文系でも統計やデータサイエンスを学ぶことは可能だが、学習の進度は個人の数学力に大きく依存する。

 GoogleやAmazonなどのハイテク企業では、エンジニア(理系)がプロジェクトマネージャーやビジネス職(文系)に転向するケースが多い。例えば、エンジニア出身のCEO(サティア・ナデラ(Microsoft)、サンダー・ピチャイ(Google))が多い。理系知識を持ちながら、経営・法律・経済を学ぶことで、より高次の役割を担うことができる。

 一方、文系からデータサイエンティストやエンジニアといった理系に転向する場合、習得には時間がかかる。「データ分析+経済」「法律+AI規制」など、応用分野で活躍する例もあるが、基礎的な数学・プログラミングを独学で習得するのは大変である。企業では「文系だけどITに強い」という人材は評価されるが、完全なエンジニア転向は容易ではない。

 理文の移行難易度と必要な時間について、AIに聞くと、以下の回答が出ている――。

 理系 → 文系 難易度:易しい~中程度 所要時間:6か月~1年
 文系 → 理系 難易度:難しい   所要時間:2年以上

 数学の習得コストが大きいため、「文系→理系」の移行は時間がかかる。一方、「理系→文系」は、既存の論理的思考を活かせるため、学習の負担が相対的に少ない。

● 管理会計における役割の融合

 最後に実例を挙げよう。企業経営に欠かせない管理会計――。

 一般に、理系は数値や分析を重視し、文系は概念的な思考や人間心理を扱うとされる。しかし、特に管理会計の分野では、この2つのセンスが融合することで、財務会計では見えないコストを「見える化」できる。

 管理会計は、財務会計のように企業の外部向けの決算報告を目的とするのではなく、経営判断のための内部情報を扱う。その際、単純な数値計算だけでは捉えられない「隠れたコスト」に着目することが重要となる。例えば、財務諸表には表れない「時間資源」の浪費「機会損失」といったコストは、企業の実質的な収益性に大きな影響を与えるが、多くの人が見落としがちである。

 たとえば、フェイスブック(FB)の利用を考えてみる。大半の人は「無料」と認識しているが、実際には違う。ユーザーが費やす時間は貴重なリソースであり、それを他の生産的な活動に使っていた場合に得られたであろう成果(機会損失)を考慮すれば、FBの利用には見えないコストが発生している。こうしたコストを定量化するには、理系のデータ分析力だけでなく、文系の視点による「価値」の洞察が不可欠である。

 つまり、管理会計の高度な活用には、理系の数値分析力と文系の概念的思考が相互に補完し合うことが求められる。データを分析するだけでは不十分であり、それをどのような切り口で捉え、解釈するかが、経営の意思決定において大きな違いを生むのである。

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