機長ハイジャック説のロジック盲点、謎のマレーシア機墜落

 マレーシア航空MH370便の墜落事故、中国系サイトで多数見た「マレーシア政府陰謀説」。マレーシア航空MH370便の機長と副機長がマレーシア政府に対しアンワル元副首相の釈放を求め、交渉決裂の末、燃料切れで南インド洋に墜落したという説。

 マレーシア当局の今回の対応不備、一連の顕在的事象、表象を積み上げると、このような結論があったのだろう。厳密なロジック推理であろうか、少しでもまともに考えると、矛盾がいっぱい出てくる。私はパイロットではないが、一般常識に基づいて犯人とされる機長と副機長の目線を試みる。

 まず、対象便、対象ルートの選択。「交渉」というプロセスを中心にハイジャックを行うわけであって、特にこのような重大な交渉内容だと、政府関連の調整には時間がかかる。無着陸の交渉であれば、なるべく飛行時間の長い欧米線がよいのではないか。北京便は燃料が8時間弱しか積んでいない。実質的に6時間ほどの交渉で妥結できるのか。ほぼ絶望的であろう。そして、通常1回ないし2回の着陸を伴い、地上交渉も含めた数十時間のものを想定するのなら、南ルートよりも北ルートのほうがはるかに有利であろう。交渉はLast Minuteで妥結しても、南ルートだとそれこそ、着陸する滑走路皆無の南インド洋を飛んで何の意味もないのではないか。

 次に、民用航空機は客室から操縦室へ押し入るハイジャックを想定していて、操縦席のハイジャックを想定していない。構造的にも、システム的にも操縦席のハイジャックにたくさんの有利な条件を提供しているはずだ。この多大なメリットをなぜ200%活用しないのか、それがおかしい。たとえば、北京便なので、あえて中国国内に着陸して交渉をするのも一策だろう。中国軍の特殊部隊は前代未聞の操縦士ハイジャックに即対応し、制圧できるとは思えない。どこにせよ、着陸、燃料補給と再離陸はさほど難しいことではない。本当にアンワル釈放目的の交渉ならやはり、有着陸交渉で臨むべきであろう。

 さらに、もともと死ぬつもりだった場合、それで南インド洋ルートは納得する。でも、通常この種の死なら、静かに誰にも知られない死に方よりも、壮絶な死に方がいいだろう。神秘な失踪は、逆にマレーシア現政権に嘘をつく多くのチャンスを提供したのではないだろうか。

 まさに、謎。どの推論も、完璧に論理的に成り立つことができないのが不思議だ。