【VOA 取材記事・ラジオ放送】中国と台湾のTPP加盟申請争い、日本はどうする?(抄訳)

【VOA 取材記事・ラジオ放送】『中国と台湾のTPP加盟申請争い、日本はどうする?』=中国語記事『CPTPP:中国和台湾争相入群 日本你怎么说?』(2021年9月28日付ボイス・オブ・アメリカ(VOA))(抄訳)

 日本・自民党総裁選に立候補した4人の候補者は全員9月24日に、台湾の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への加盟申請を歓迎し、支持すると表明した。 日本はこれまで中国のTPP加盟について、「中国がTPPの高い基準を守れるかどうか、見極める必要がある」とし、議長国として中国と台湾の加盟に対して明らかに異なる姿勢を見せている。専門家が日本の外交・経済戦略をめぐって、日中・日台関係に生じ得る変化を分析する。

 中国は9月16日、台湾が9月22日に相次いでTPPへの加盟を正式申請した。日本は議長国であり、TPPの中でももっとも影響力をもつ国だ。

 国際経営コンサルタント、エリス・コンサルティング社創設者である立花聡博士は、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に応じ、次のように指摘した。

 日本は姿勢に違いが見られても、本質的な姿勢転換を意味しない。日本国内では、価値観と経済的利益の相互関係に対する理解が一貫して曖昧だった。産業界の主流を代表する左翼勢力は常に、経済的利益を最優先してきた。対中・対台の関係という点では、両者それぞれの経済的利益総量を単純に天秤にかけてきたところで、「中国重視・台湾軽視」という結論に達する。対照的に、日本の親台派は、共通の価値観あるいは日台の歴史的な絆に立脚した保守右派として位置付けられてきた。

 立花氏はこの現状についてこう指摘する。「実はこれは間違った理解だ。現代社会では多くの価値観は現に一定の経済的基礎に立脚している。いわゆる共通の価値観の意味合いは、ゲームに参加するプレーヤー全員が共通のゲームルールに則って公正に取引できるようにすることだ。公平な取引ルールの徹底によってのみ、取引コストを削減し、最大の経済的利益を確保することができる。しかし、日本の政治家や政府関係者ないし財界のほとんどの、いわゆる主流層の人々は、この本質的な法則に気づいておらず、目先の短期的な利益に貪欲であるだけだ。最近になって、中国の軍事力の増大、サイバーセキュリティの脅威、そして同国による全面的な浸透により、日本はようやく危険を感じ、安全保障における重大な懸念を抱き始めた。これは、相対的に日台関係の蜜月化にも反映されている」

 立花氏は、日本の政財界はその基本的な認識に本質的な変化がない限り、TPP問題においても必然的に意見が割れるとみて、中国は公正取引の原則を守らない以上、莫大な取引コストが発生するため、日本にとって台湾のTPP加盟のメリットは中国の加盟よりもはるかに大きいとの見解を示し、次のように指摘する。

 「オーストラリアの例を見ればわかりやすい。中国がオーストラリアに懲罰的な関税制裁をかけた。政治が経済を凌駕し、ゲームルールを破り、あるいは独善的なルールを押しつける典型的な事例だ。現在大方のメディアや世論は、1つのポイントに焦点を当てている。それは、オーストラリアが中国のTPP加盟に大きな障害になることだ。実際、中国が単にこの障害を排除するだけなら、そう難しくはない。対豪政策を変えればいい。一時的に関税制裁を弱め、あるいは廃止すればいい。だか、本質は変わっていない。これは中国の一貫した戦術だ。WTOを見ればわかるだろう」

 立花氏は、これはつまり中国とTPPの間にいかにゲームルールを確保し、公正な取引を可能にするかの問題だと強調し、米欧間にも貿易紛争があるが、それが基本的に同じゲームルールに則っている以上、質の衝突ではなく量の競合に過ぎないのに対して、中国の場合はまったく異なり、同国は公正な取引ルールを無視するため、取引コストは削減できず、なかでも安全保障上の問題そのものが莫大なコストであると指摘した。

 氏は語気を強める。「トランプの対中貿易戦争をみれば、明らかだ。トランプは、ゲームルールに従うことを中国に求めていた。それはつまり、質の問題だ。しかし、中国はアメリカの農産物をもっと多く買うからと言い出し、要するに量の次元への論点すり替えなのだ。その辺の損得関係に対して、日本の政治家でトランプのような頭脳をもち、真の国益という概念をしっかり捉えている人はどのくらいいるのか、私は非常に悲観的だ」

 立花氏は、中国の現状をみるかぎり、同国が高基準の自由貿易協定であるTPPへ加盟する可能性はほぼゼロに近いことから、日本はTPP加盟ルールに則って淡々と対処すればいいと主張したうえで、こう指摘する。現在のTPPをみると、一部低基準国も参加している。しかしこれは、量ではなく、質の点で中国と異なるため、TPPに参加しているわけだ。たとえば、ベトナムはTPPに参加するために、多くの質的変化を自ら遂げてきた。その中で最も本質的な変化は労働問題。TPPとこれまでの貿易協定との最大の違いの1つは、厳格な労働条項だ。ベトナムは、労働者利益の保護における改善を約束し、2019年に労働法を全面改正した。驚くべきことに、ベトナムは従来の共産党率いる単一労働組合政策を放棄し、独立系労働組合を設立する自由、および労働組合を選択するする自由(複数労働組合制度)、つまり結社の権利を国民に認めたのである。これは今日の中国では完全に不可能だ。

 これについて、立花氏はこう解説する。「共産圏、社会主義体制下の国では、それはあり得ない。独立系労働組合の設立は自由な結社を可能にし、それが一党支配の統治基盤を脅かし得るからだ。国連『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』第8条は、特に労働者の権利保護において、結社の自由における市民の権利を認めている。2001年、中国は正式にこの条約を批准した。しかし同時に、中国政府は条約8条1項a号、すなわち結社の自由の権利を留保とした。留保声明は、中国政府が憲法、労働組合法および労働法などの国内法の関連規定に従ってこれを処理するとした。中国はすべて政治に立脚する原則を堅持し、単一労働組合体制に関する原則も当然譲れない一線であり、複数労働組合の存在を認めるわけにはいかない。それは中国生来の遺伝子に由来する」

 立花氏は、中国の脅迫や利益誘導に屈しないという前提に基づけば、中国のTPP加盟申請については、日本と他の参加国は規則に従って粛々と問題解決にあたればよく、キーポイントは変わらぬ中国の「質」次元にあるものだと強調した。

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