末期告知もコンサルタントの義務だ

 「このような労働契約書を使用しているということは、失礼を承知のうえで、あえて率直に申し上げると、『ずさん』な状態といわざるを得ない」

 本日、某大手日系企業に提出した法務意見書に、私はこう記した。東証一部上場企業で、担当者の方もこのブログを見ているはずだ。

 現行労働法令に照らして違法箇所が複数あるうえ、経営リスク回避の内容は皆無・・・、コンサルタント意見の欄にどう書こうか、昨夜ずいぶん迷った。「改善すべき点」といったようなスマートな表現もあったが、とても現状を表すことができない。私の気持ちを正直に相手方に伝えるために、「ずさん」という言葉しかない。

 医師に例えれば、「末期告知」にあたるが、むしろストレートに言うべきだと私は考えているのだ。これはコンサルタントの義務だ。それで、顧客に切られたら、それでいい。「立花さんは、元々メーカー出身だから、頑固な職人意識があるようだね」といわれたことがある。私は、愚直な職人意識を美学としている。

 最近、いい加減な弁護士は、ずいぶん増えた。経営者の言いなり、一方的に経営者の意思を労働契約に盛り込み、労働者に不利な条件で法に触れる内容も一向に関係ない。一方、本命のリスク回避はまったくなし、法律の条文をそのまま契約に放り込んでいるだけ。法律の条文をそのまま契約書に入れることには、何の意味もない。サルでもできる。弁護士など要らない。契約書とは、まず適法性、それからリスク管理。将来発生しうるトラブルを想定しながら、その回避策を条文に変えていき、契約書のあちこちに潜り込ませることだ。

 「ずさん」という言葉を使って良いかどうか、百科事典を調べた。「ずさん」とは、中国の宋の杜黙(ともく)の詩が多く律に合わなかったという故事に由来すると記されている。詩や歌が律に合わなかったら、「音痴」と嘲笑されて済むが、会社の経営は?

<次回>