マレーシア移住は「まだ可能」だが、「昔の延長線上」ではない。ここを誤認した瞬間に失敗が始まる。
● 利害構造を理解せよ
ビザ申請代行、コンドミニアム紹介、銀行口座開設、車両購入サポート、留学支援、投資仲介。これらはすべて手数料連動型である。紹介物件が高額であるほど、手数料は増える。滞在年数が長い前提ほど話は美しくなる。「慎重に」「もう少し考えて」は彼らのKPIにならない。(これは批判ではなく、利害構造の提示である)
● 制度は「歓迎型」から「選別型」へ移行した
MM2Hは、かつては比較的緩やかな条件で長期滞在が可能だった。しかし近年の改定で、最低滞在日数・預金要件・資産証明などが引き上げられ、州別制度との条件差も拡大している。結論は単純で、「余裕資金のないセミリタイア層」には向かなくなっている。
● 「生活費が安い国」という幻想を捨てる
確かに日常物価は日本より安い部分もある。しかしクアラルンプールの人気エリアでは家賃は上昇傾向、私立医療前提で保険必須、インターナショナルスクールは日本より高い場合もある。「安いから移住」はもう成立しない。「資産防衛」「通貨分散」「ビジネス拠点化」など明確な戦略目的が必要だ。
● ビザは永住権ではない
マレーシアは原則として移民国家ではない。長期滞在は可能でも、政治的権利や社会保障のフルアクセスは得られない。制度は将来さらに変更される可能性がある。つまり「制度リスク」を受け入れる覚悟が必要だ。
● 医療と老後は自己設計
EPFやSOCSOは現地雇用者向け制度であり、MM2H取得者の老後保障ではない。私立医療は質が高いが、高齢化とともに保険料は上昇する。60代以降で移住するなら、「帰国前提の出口戦略」を設計しておくべきだ。
● 教育目的移住は費用対効果で判断
University of MalayaやTaylor’s Universityなど評価の高い大学もあるが、子どもの最終進路がどこなのかで意味は変わる。英語環境取得だけが目的なら、短期留学や第三国の方が合理的なケースもある。
● コスト構造を減価償却で考える
移住は感情ではなく投資である。前期投資を分解してみる。
・ビザ申請・エージェント費用
・預金拘束(機会損失コスト)
・住居取得・家具家電・車両購入
・子どもの入学金
・引越費用
・言語・生活立ち上げコスト
仮に初期総投資が500万円〜1,500万円だとする。この金額を「何年で回収するか」を計算しなければならない。
例えば日本より年間生活費が150万円安くなるなら、
1,000万円の初期投資は約6〜7年で回収できる。
逆に年間差額が50万円しか出ないなら、回収に20年かかる。
つまり「何年住む前提か」で合理性は全く変わる。5年未満なら、多くの場合は回収不能。10年以上の滞在でようやく投資として意味が出る。
● 為替と流動性リスク
リングギットは基軸通貨ではない。資産の多くを現地通貨で保有する場合、為替下落はそのまま実質損失になる。現地収益源がない移住は、通貨リスクを一方的に受ける構造になる。
● 結論
マレーシア移住は「夢」ではなく「資本配分の意思決定」である。余裕資金、健康余力、10年以上の滞在前提、制度変更耐性――この四条件を満たすなら合理性はある。
満たさないなら、旅行と短期滞在で十分だ。
制度は感情に寄り添わない。計算できる者だけが、後悔しない。





