なにわ人情と寧波人情、寧波市訪日代表団の思い出

 本当に、久しぶりに役人と会った。寧波市外商投資促進センターの投資誘致担当役人だ。

 基本的に各地方の投資誘致担当の役人と付き合わないのが、私のコンサルタントとしてのポリシーだ。〇〇開発区や△△工業園区ないし市や省の投資誘致担当役人と会うと、必ず、「日本企業を紹介してください」と頼んでくる。うちの園区はいかに投資環境が素晴らしいかといった類の宣伝はさておき、企業誘致成功の場合、コンサルティング会社に投資総額の△%を仲介報奨金として支払うと申し出る地域もある。

 コンサルティング会社として、地方政府や園区から利益を得るということで、顧客企業との利益相反も発生しうる。たとえば、A園区とB地方を顧客C社に推薦する場合、A園区よりもB地方がC社に適している。しかし、A園区からコンサル向けの仲介報奨金が出るが、B地方にはない。さて、コンサルタントは、どうするか。そのような嫌疑を避けるために、私はここ数年、あらゆる地方政府や役人から頼まれても、付き合わないし、協力関係も持たないことにしている。投資地の選定については、複数の投資候補地を客観的に評価し、総合得点の高い地域を顧客に推奨する。

 唯一の例外がある。例外といっても、友人関係として付き合っているだけの地方がある。それは、浙江省の寧波市だ。遡ると、2001年創業当時の話になる。あのとき、顧客に売り込みたくても、セミナーを開催する実力がなかった。集客力もゼロに等しい。どこかの組織と組まないとダメだと判断し、日本各地の商工会議所に声をかけてみた。東京にまず断られたが、さすがなにわ人情で大阪商工会議所からはOKサインが出た。しかし、条件付き。どこか中国の地方投資誘致セミナーとセットで、30分ほどのスピーチなら良いですよと。

 早速、江蘇省や浙江省あたりの地方政府に打診してみる。ちょうど寧波市が当時、関西や九州地域向けの投資誘致プロモーションをかけようとしたところで、じゃ、日本側のコーディネーターをやってくれないかと快諾してくれた。

 すると、私は、寧波市の投資誘致ジャパン・ツアーのコーディネーター兼添乗員兼通訳兼ドライバーになった。

 2001年、寧波市の投資誘致日本訪問団の団長を務める方は、当時の寧波市対外貿易経済合作局の彭朱剛副局長だった。役人にしては、役人らしくない人柄に、私は惹かれたのだった。

 大阪商工会議所で、寧波市投資環境説明会が開かれ、私は45分の講演時間をいただき、コンサルタントのデビューとなった。本来、寧波市をテーマにしなければならないところだが、コンサルタントとして私は顧客企業の立場から特定地域の後援を渋り、長江デルタ地域の投資環境の総合説明と比較で講演を行った。寧波については、最後の10分だけ取り上げて説明した。

 私の講演が後々寧波代表団の団員から苦情を招いた。「寧波の説明会に、立花というやつはなぜ他の地域を引っ張り出すのか」。そこで、彭朱剛副局長が、「立花さんが他の地域を引っ張り出して比較という手法で、寧波の投資環境の優越性を突出させたのではないですか。斬新なアプローチで良いと思います」と思わぬ援護射撃をしてくれた。ようやく、騒動が収まった。

32350_2寧波市海曙区・彭朱剛区長(政府ウェブサイト写真)

 しかし、問題はそれで終わらなかった。訪問団は関西、鹿児島を回って、最終的に下関で投資説明セミナーを行った。下関も寧波も良港を抱え、航路開設で様々なレベルで対話が持たれた。下関セミナーで私は半分のセッションをもらい、「中国投資はコスト削減につながるか」とのテーマで講演をした。今度、テーマは寧波から完全に外れたばかりか、一番問題になったのは翌朝の朝刊紙だった。デカデカと報道されたのは、私の講演内容で、紙面を飾った写真は私が主役になっているばかりか、彭副局長は小さく後ろに映っていただけだった。中国の役人には、耐え難い情況だった。これはさすがにまずい。私はやりすぎた。「これは何事だ」、案の定、寧波訪問団の団員から再び私に爆弾が投下された。

 「写真も報道もどうでもいいじゃないか。私たちは投資誘致で日本に来ているんだから、立花さんの話で日本企業が納得して、寧波を投資の候補地に挙げてくれればそれで良いじゃないですか」

 彭副局長は、並みの中国役人ではない。官として最重要視されるメンツよりも、実務を重んじる姿には、私は感動し、また感謝の気持ちで胸が一杯になった。

 後日、私が寧波を訪れたとき、彭副局長は自ら宴会を設け招待してくれ、友人の絆がいっそう固くなった。その彭副局長の実務手腕がやはり評価されたのか、後、寧波保税区党書記(トップ)を経て、2007年に寧波市の「千代田区」にあたる海曙区(30万人)の区長に抜擢された(現在在任中)。

 だから、寧波との付き合いは、この彭区長との付き合いから始まったといっても過言ではない。という思い出に耽り、私は来訪した寧波の役人を丁重にもてなし、寧波への再訪を約束した。