「ワン・プラス・チャイナ」の勧め、安倍新首相の日中関係論

 安倍晋三新首相就任後の外交方針が次々と発表された。特に日中関係について、外務省は「日中関係はあと半年は動かない」と見越し、今のうちに中韓以外のアジア各国との関係を強化して両国をけん制する作戦を提案した。安倍氏が記者会見で、「日中関係は、視野狭窄的に日中関係だけを見つめて良好な関係に持っていく、改善するということはできない」と述べた。

 いずれも正しい判断だと思う。日中関係は、日中関係だけで考えるのは、近視眼的なアプローチである。日中間の積極的な対話を主張する人が多い。特に対中ビジネスにかかわる人は、どうしても、早急な関係改善を望んでいる。これは、批判すべきものではないし、私自身も日中ビジネスを生業とする人間として、賛成である。ただ、そこには方法論がある。

 「対話」というのは、交渉であって勝負でもある。交渉、勝負に出る前に、手元にどのようなカードを握っているかそれが重要だ。有力なカードを持ってこそ、はじめて交渉の優位に立つ。その辺、北朝鮮はとても上手だ。国際的に孤立した存在という致命傷を補完するために、つねにカードを探し、カードを作っている。

 賃上げ交渉も同じ原理だ。個人ベースで上司や会社に「給料を上げてくれ」と交渉を仕掛ける前にしっかりとカードを用意しなければならない。「私に給料を上げてくれないと、会社を辞める。私が会社を辞めると、会社は大きな損をする」というのが最有力のカードになる。辞めてもすぐに取って替わる別の社員がいて、会社は痛くも痒くもない社員だったら、賃上げ要求の交渉にカードを持たない。すると交渉しても一蹴され、到底勝負できないのである。

 日中関係が悪化すると、日本も中国も損する。そこで、まずいかに自国の損を最小限にする(相対的に他国の損が大きくなるわけだ)かがカギとなる。そこで、実体経済を見れば一目瞭然、「チャイナ・プラス・ワン」が凄い勢いで動き出している。私に言わせてみれば、「チャイナ・プラス・ワン」よりも、「ワン・プラス・チャイナ」を念頭におき、本命とオプションの位置づけを調整できた時点で、それが究極のカードになる。

 交渉のための交渉になってはならない。交渉のための基盤作りにまず取り組みたい。それが真の外交であって、企業戦略である。