ロボティクスとAIが変える社会、経営と人事の視点から

 この数日は、マレーシアの大学を回る日々が続いている。なかでもテイラーズ大学(Taylor’s University)は、世界大学ランキングで上位にランクインする名門私立大学であり、国際的な評価も高い。そのテイラーズ大学で、ロボティクス研究センターのシム教授と懇談する機会を得た。

 私は法学と経営学を専門とするが、実は理工系出身である。エンジニアリングに縁のある身として、AIだけでなくロボティクスにも強い関心を持っている。これまで、理系は技術を生み出し、文系はそれを社会に応用するといった区別があった。しかし、AIやロボティクスの進化は、この境界を急速に曖昧にしている。もはや、「技術を知る者」「経営や人事を担う者」が別々に存在する時代ではない。

 ロボティクスは、単なる技術革新ではなく、人類社会そのものの在り方を変える要素である。特に、産業構造や労働環境の変化は避けられず、それにどう適応し、どのような人材を育成するかが、経営や人事の最重要課題となる。

 従来の産業ロボットは、工場の組み立てラインや物流システムに導入されてきたが、AIとの融合により「自律型ロボット」が急速に進化している。今や、ロボットは単純作業を担うだけでなく、人間と共に考え、協働する時代に突入している。これは単なる技術の話ではなく、社会全体の設計をどう変えるか、という視点が不可欠である。

 例えば、ロボティクスとAIが高度に発達した社会では、従来の「労働」という概念そのものが変わる。単純作業の多くが自動化されることで、従業員の役割は単なる作業員から「創造的な業務を担う存在」へとシフトしていく。しかし、企業の多くは依然として「労働者=働かせる存在」という固定観念に囚われたままである。これが変わらなければ、いくら技術が進歩しても、組織は前時代的なままだ。

 経営や人事の視点から見れば、AIやロボティクスの導入に伴い、企業が直面するのは単なる人員削減の問題ではない。むしろ、「いかにして人材を高度化し、創造的な仕事に適応させるか」が鍵となる。単純作業から解放された人間は、どのようにして価値を生み出すのか。そのための教育と仕組みがなければ、新しい技術を導入しても、人間の可能性は開花しない。

 これまで、経営者や人事担当者の多くは、AIやロボティクスを「技術者の領域」として捉え、直接関与することは少なかった。しかし、今やそれは経営の本質に関わる問題である。単に「技術を導入するかどうか」ではなく、「新しい時代に合わせて組織をどう変革するか」という視点がなければならない。

 技術革新は止まらない。ならば、経営者や人事担当者は、それにどう適応し、いかに人材を活かすかを真剣に考えねばならない。AIとロボティクスが生み出す未来において、最も重要なのは「技術の進化」ではなく、「それをどう社会に組み込むか」という視点である。テイラーズ大学での議論は、その課題を改めて浮き彫りにするものだった。

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