起業の成敗、起業の助言

 過去数年に、起業希望の若者(ほとんど日本人だが)から、起業の相談を持ちかけられたことが十数回、いや数十回あったかもしれない。その多くは、「立花さんが中国で大成功しているのだから、成功のコツを教えてください」、そしてその方の起業についてアドバイスをくださいと、大体こういうパターンだ。私はすべて助言を断っている。理由は三つある。

 まずは、私が起業した方がいいと言ってそのうち失敗した場合、あるいは起業をやめた方がいいといって後から起業すれば大成功していたかもしれないと後悔した場合、いずれも良くない。時々しつこく助言を求められると、私はこういう。「貴方の心の中で、『起業する、しない』の比率はどうなっているのか、起業が50%以上ならアクションを起こす、逆であればやめると」。すると、「実は50%ずつ」という答えが返ってくると、私は「じゃ、私に聞くより、コインの表裏で決めた方が、悔いが残らない」と話を切り上げる。

 次に、1人の成功者に聞くよりも、9人の失敗者に聞いた方がいいと私は常に言っている。起業の成功率は1割、失敗率は9割といわれている。1割の少数よりも、9割の多数に聞いた方がいい。アメリカでは、創業失敗者、しかも2~3度失敗している人は一番価値が認められるのである。もう、成功に近いという意味で。日本では、失敗を認めない。一度の失敗で人生がダメになってしまう、失敗者に寛容ではない社会の気風は最悪だ(企業内でも同じ)。

 最後に、人それぞれかなり状況も性格も価値観も違うので、助言があまり意味がないと思う。私の場合、起業の準備は何もしていなく、ただ酒の席で酔っ払った勢いで会社を辞めたのだった。再就職のめどが立たないうち、気がついたら四面楚歌、逃げ道は一本も残っていなかった。最後の道として、起業を選んだのだった。いや、「選ぶ」という言葉は間違っている。どうしてもというのなら、「起業」か「死」の選択から、私は「起業」を選んだのだった。

 ここまで言ったら、私は果たして成功者なのかとネットで調べると、こんなことが書かれていた。

 成功と見る条件
 その一、自由に使えるお金が同年齢のサラリーマンより多い
 その二、上記の状態が5年以上続いており、今後も続く見通し
 その三、激務ではない、概ね1日8時間労働以内、週休2日以上取れている

 さらに、大成功と見る条件
 その一、自由に使えるお金が同年齢のサラリーマンの5倍以上
 その二、上記の状態が5年以上続いており、今後も続く見通し
 その三、1日4時間労働以内、週休3日以上取っても、業績に影響しない

 がっくり。まあ、お金や持続性のことはともかく、条件三はまったくクリアできていないことに気づく。ちなみに、私の場合、平均1日10時間以上の勤務、週休0.5日(年間まとまった休暇の週間平均換算)・・・、成功条件に達していないし、大成功には程遠い。

 ただ、成功条件を量と質に分けて考えるのなら、上記の条件はいずれも量的条件であって、少々偏っているような気がする。質的条件は、何と言っても、――「自由を手に入れた実感の有無」

 若者よ、起業するかどうか、敗者に聞きなさい。自分に聞きなさい。