AI時代(1)~産業革命とサプライチェーンの関係、そしてAI時代の一九社会

● 産業革命とサプライチェーンの関係

 蒸気機関の産業革命は、生産力を飛躍的に高めると同時に、サプライチェーンを延長させた。大量生産・大量輸送の仕組みが整備され、原料供給地から工場、流通市場に至るまでの距離は拡大し、世界規模の分業が加速した。鉄道・蒸気船・電信といった技術は、まさに「広域化するサプライチェーン」を前提として機能したのである。

 これに対してAI革命は、逆にサプライチェーンの短縮をもたらす。AIは知識・設計・管理といった上流工程を自動化し、また3Dプリンターやローカル生産技術と結びつくことで、製造やサービスの地産地消を可能にする。従来なら複数の工程と複数の拠点を経由していたプロセスが、AIの統合によって一カ所で完結する方向に収斂する。

 すなわち、産業革命が「グローバル化=延長された鎖」を作り出したのに対し、AI革命は「ローカル化=短縮された鎖」をもたらす。前者は人類を国際的分業に組み込み、後者は人類をAIと資本に直結させる。結果として、労働市場も同様に短縮化し、中間的な仲介・管理・調整の職域は消滅するのである。

 ゆえに、AI革命は単なる効率化ではなく、サプライチェーンそのものを再定義する。延長から短縮への転換は、労働・制度・社会のすべてに波及し、最終的に一九構造への収斂を加速させるのである。

● BMT概念から見るAI時代の一九社会

 マレーシアには、国民所得を三層に区分するBMTの概念が存在する。すなわち、下位40%のB40、中間40%のM40、上位20%のT20である。この区分は統計や政策の根幹をなし、補助金や住宅支援の対象決定に直結している。

 日本には明示的なBMT区分は存在しないが、統計的に見れば年収400万円未満が約四割、800万円以上が約二割であり、実質的に同様の三層構造を持つといえる。

 しかし、AIと自動化の進展は、この三層構造を根底から崩壊させる。AIは単純労働だけでなく、翻訳、会計、教育、管理業務など、かつて中間層を支えていた知的労働をも代替する。これにより、M40に相当する中間層は急速に縮小し、緩衝帯としての存在を維持できなくなる。

 その帰結は、B90とT10による一九法則的な二極社会である。

 九割の大衆は低所得層として制度に依存し、ベーシックインカムや補助金によって生活を維持される。一割の上位層はAIと資本を統御し、制度や市場の設計権限を握る。かつてのM層は不可逆的に消滅し、社会的流動性を担う中間帯は失われる。

 時期的に見れば、2030年代前半には中間層の形骸化が目立ち始め、2040年代にはB90・T10の構造が制度として完成する可能性が高い。歴史が圧縮される時代において、移行は従来よりもはるかに早く進行するであろう。

 結論として、マレーシアのBMT概念で示される「40:40:20」の三層社会は、AI時代に「90:10」という極端な二極社会へと収斂する。

 中間層はもはや持続的に存在せず、大衆は制度に依存する被扶養層となり、少数の設計者層が支配する。この未来は避けがたい収斂であり、社会制度の最大の課題は「九割を無為の群衆にするのか、成果欲求を通じて部分的に流動化させるのか」という選択に移行するのである。

 ここにおいて私の設計したThree-Tier™/3階建®制度の意義が浮かび上がる。Three-Tier™は承認欲求を成果欲求へと転換し、T3成果を媒介として個人に自走的成長の機会を与える仕組みである。すなわち、B90を単なる被扶養層に固定化するのではなく、制度的に成果を通じて上昇可能な「流動化された九割」として再設計する装置である。

 AI時代において一九構造が不可避であるとしても、九割を「従属者」にするか「成果に駆動される主体」にするか、その分岐点に立っているのである。

<次回>

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