立花聡著書『「なぜ」から始まる「働く」の未来』のWhy・Who・How

 立花聡著書『「なぜ」から始まる「働く」の未来~働き方・生き方を変えたい人へ10の提案』について

 ● Why-なぜこの本を書こうと思ったのか?
 ● Who-どんな人に、
 ● How-どんなふうに読んでもらいたいか?

 A.人を取り巻く環境が変われば、人も変わらなければならない。B.今ほど激変する日本や世界をみたことはない。C.だから、われわれは早急に変わらなければならない。

 ――上記は、典型的な演繹法、三段論法(A+B=C)ともいわれる方法に基づく論理的推論である。そこで導き出された結果には、おそらく、異論を唱える人はいないだろう。正論だから、誰もが反対できないし、賛同せざるを得ない。

 しかし、その続きには「でも…」という反論ではなく、拒絶反応を正当化する論述が出てくることがしばしばだ。「べき論」に対して「できない論」が出てくるということだ。私の表現に置き換えれば、この場合の「べき論」はIQカテゴリーである一方、「できない論」はEQの領域に属する。

 論理的な知情緒的な知によって拒絶されるときである。

 書店の店頭をのぞいても、オンライン販売のカタログをのぞいても、たくさんの良書が売られている。そのほとんどが「変化すべきだ」という理論編の正論、と、「どう変化するか」という実践編の正論を語る書籍である。これらの書籍を読んで主旨に同意し、行動に移しさえすれば、日本はとっくに変わっていたはずだ。

 しかし、そうなっていない。いや、むしろ、真逆な状況になっている。多くの日本人はこれらの正論に同意しながらも、変わろうとしていない。IQ的には同意しても、EQ的に行動しないことである。「タバコをやめるべきだ」と同意しつつも、「タバコをやめようとしない」人が多いのと同じことだ。

 論理的な知と情緒的な知のジレンマをどのように解消していくか。これが今の日本人や日本社会が直面している最大の課題ではないだろうか。この課題の本質を突き、出口を模索する。このような書籍がまだ少ないように思えた。だから、書こうと思った。

 執筆にあたって、私はいろいろと悩んだ。いや、私だけではない。編集長も私にいろいろと悩まされた。IQ分野の内容なら、堂々と論理的な展開を繰り広げればよかったのだが、EQ的領域となると、情緒的なだけにデリケートなエリアであり、下手をすると、読者の違和感ないし反感を呼び起こしかねないからだ。

 少し説明させてください。課題は一般的に、「技術的な課題」と「適応を要する課題」という2種類に分類される。

 たとえばの話だが、自動車修理、あるいは財務諸表作成の場合。技術的な内容のみで、誰が勉強して取り組んでも同じ課題で、「技術型課題」という。

 もう1種類の課題は、技術的な部分も含まれているが、実は当事者によって、異なる利害関係や立場や目線を持ち得るもので、取り組みにあたって、適応(目線合わせ・調整・最適化)を必要とし、いわゆる「適応型課題」と分類される。特に人間関係が絡んでいる以上、この種のやや複雑な適応型課題が結構多いのである。

 課題の形態を区分をせずに、均一的な手法(技術型課題の対処)で課題に取り組もうとすると、顕在的あるいは潜在的問題が新たに生じることがある。いわゆる「問題の解決過程に生じる問題」だ。これは実は厄介で、あとの課題取り組みをこじらせることもある。

 話を本題に戻そう。この本のタイトルはもともと、「生き方改革」というネーミングを予定していた。しかし、それでいいのか。

 取り巻く環境を見渡して、変化が欠かせないことは明確である。その変化は、上辺の働き方改革などでは到底間に合わない。根底に横たわるものは、生き方改革だった。だが、その結論はどんなに揺るぎない正論であっても、読者の一人ひとりが全員、感情面においてすんなりと受け入れてくれるとは限らない。IQとEQのジレンマが生じるわけだ。

 生き方改革は、いままでの生き方に対する否定を前提にするものであれば、EQの領域に属する「できない論」が台頭し、拒絶反応を引き起こす。生き方改革は、複雑な「適応型課題」であるからだ。

 それでも、書いてみたいと私は決心した。自信がもてる部分ともてない部分を持ち合わせていた。

 自信がもてる部分は、限られた特定の組織・個人単位向けの取り組みである。私は経営コンサルタントであって、人事制度の改革案件を数多くクライアント企業から依頼されてきた。そのほとんどが「適応型課題」であったが、例外の少数を除いて、基本的にこなしてきたし、僭越ながら大きく成功した事例も多数あった。そこで本領を発揮して企業組織レベルでの「働き方改革」ならぬ「働かせ方改革」に取り組み、それを連鎖的に個人レベルにおける「生き方改革」に落とし込んでいく、という方向性には、大きな自信があった。

 自信がもてない部分は、不特定多数向けの課題取り組みである。国家や社会といった1億人規模の単位となれば、私は政治家でもなければ、社会運動家でもない。これらの地位を目指す志ももっていないだけに、無理がある。できないことはやらない。戦略とは、やることとやらないことを決めることで、まずはやらないことを決めることだと言われているように、私は直接に国家や社会の改革に取り組むなどは考えていない。もちろん、ボトムアップの変化なら心底から期待しているのだが。

 この本はまず、変化が不可避・不可逆であるエビデンスを示した。現状を俯瞰的に把握し、本質を捉えたいすべての人に読んでもらいたい。その上、すでに変革に取り掛かっている人、これから取り掛かろうとしている人、その逆で、まだ変われていない自分、あるいは変わろうとしない自分を克服(ニーチェの言葉=自己超克)しようとする人に――人とは、企業組織の経営者やリーダーと個人の両方を含む――この本を読んでもらいたい。この本から少しでもヒントを得てもらえれば、うれしい。さらに、一緒に議論し、実践し、この本の内容を一段と深めていきたいと願っている。

 最後の補足になりますが、本を読んだ後の次の行動ステップをご案内しましょう。

 企業組織の場合、「働かせ方」となる制度(仕組み)改革については、性質上別途専門書として近いうちに刊行する予定です。そこまで待てない、あるいはもう少し踏み込んだ話を聞きたい企業の方は、当社事務局へご連絡くださいeris@eris.asia)。

 企業組織レベルの人事制度改革については、続編として、9月上旬に行われる『タニタ・谷田千里社長 vs 立花聡対談~正社員と個人事業主の間、「第三の道」とは?』をはじめとするシリーズ連載(一部、Wedgeサイトで公開予定)、さらに立花聡のEQ型人事制度改革Webセミナー・勉強会(オンライン)を企画しています。いずれも、IQとEQの両面における課題取り組みに重点が置かれています。関連詳細情報は、立花聡公式サイト(https://www.tachibana.asia/)でご案内します。

 個人の場合、本の中にも言及された「生き方改革勉強会」https://www.tachibana.asia/?page_id=33037)にご参加ください。あるいは上記制度改革取り組み中の企業の社員である場合は、専門の研修や勉強会にご参加ください。

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