赤い領収書の話、ベトナムVATインボイスの驚き

 ベトナム法人の公式領収書「VATインボイス」(付加価値税領収書)の印刷が出来上がった。長~い行政手続きの末、ようやく出来上がった。手に入った現物を見るとびっくり。A4サイズの分厚い束であった。1部3枚綴りの複写形式になっているので、分厚い一冊でもわずか50部しかない。

151127-1430-Hanoi-VAT Invoice記念すべき通し番号0000001番の領収書

 これは世界最大サイズの領収書ではないだろうか。中国の発票などは顔負けだ。サイズが大きいのは記入内容が多いからだ。自社と相手先の情報から取引内容まですべて詳細を記入しなければならない。

 お客様控えのページがピンク色であることから、このVATインボイスは俗称「レッド・インボイス」。ベトナムでは取引が発生すると、「先にレッド・インボイスを発行してくれ、それがないと支払いができない」という場面もある。で、そこでVATインボイスを発行したものの、支払いがなかったりすると困るのはインボイスの発行会社である。

 「インボイス」とは請求書のことだ。ところが、ベトナム語ではこの「VATインボイス」は、「Hoa Don(ホアドン)」といい「領収書」の意味で捉えられている。つまり、請求書兼領収書のステータスである(この辺は中国の発票によく似ている)。未払いでもこの「VATインボイス」をもって、「ほら領収書がここにある。もう払ったんだ」と主張されたらどうするか。

 もちろん、着金ベースでVATインボイスを発行するのがベストだが、そうではない場合、契約上では、銀行振込着金記録を支払い証憑とする条件の盛り込みなどでリスクヘッジするしかない。

 過酷ともいえる厳格なVATインボイスの行政管理は、本質的に性悪説に立脚した制度である。目的は商取引詳細の監視をもって税収の確保にあるのだろうが、その反面膨大な取引コストが発生するだけでなく、経済活動を規制し、経済成長を阻害する副作用も否めない。

 今後、TPPの発効や更なる経済成長のポテンシャルを前面に、より自由な経済活動を目指し、ベトナムは事後監査を中心とする市場経済型の運営に移行していかなければならない。一日も早く、この分厚いレッド・インボイスが歴史遺産となることを期待したい。