アラブの旅(15)~潮風と水タバコの甘い香り、禁断海岸カフェ

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 クウェートのスーク・シャークの端に孤立している海岸カフェが目に入った。というよりも潮風に乗って漂ってきた水タバコの淡い香りに釣られて入ったのは、「Port Restaurant」という海沿いのカフェ。

 客はほとんど地元・中東系。常連らしき客も少なくない。ほとんどの客が水タバコを楽しんでいる。その独特の淡い、甘い香りがなんとも心地よい。

 真っ黒なアバヤ姿の女性たちも優雅に水タバコを吹かしながら社交話に花を咲かせている。潮風に吹かれて乱れるヒジャブ(スカーフ)を直す気もなく、真っ赤な口紅を水タバコの吸い口に残しながら微笑む。

 なんとセクシーな光景であろう。もっとも禁欲的な世界だからこそ、女性の魅力が逆に引き立てられてしまうというまさにパラドックスだ。

 禁断の果実を食したアダムとエバは、裸であることに気付き、それを恥じてイチジクの葉で腰を覆ったという人類の原初から、ユダヤ教、キリスト教そしてイスラム教へと流れてくると、ついに女性の全身を覆う服装ができたのも、女性の美しさを隠し、男性への誘惑を遮断し、風紀の乱れを未然に防ぐためであろう。

 さらに言ってしまえば、自律の機能不全を予想しての他律、それが宗教(戒律)の主たる機能である。それを裏返せば、本能や欲望の存在に対する無力な是認ともいえよう。いや、だからこそ、善悪という倫理基準を打ち立てることが必要だったのである・・・。

 と、いろいろ妄想を膨らませる私の前には、注文した食事がやってきた。これがクウェート料理か。グリル魚と揚げ魚の盛り合わせとクウェート風サラダ。旨いじゃないか、これ。ビールが欲しい。

 「ちょっと、ビールくださいな」と口走りそうになった自分。ここ、クウェートは完全禁酒国家である。その分、妄想は犯罪ではない。いや、それどころか、最高の1品になったのである。いつの間にか妄想でほろ酔い気分になった。

 ボナペティ、クウェート料理。

<注>慣習・礼儀上、女性たちにレンズを向けられず、私の食いっぷり写真で・・・。

<次回>