料理にも新旧の顔がある。前衛的なコンテンポラリー料理よりも、私はノスタルジックな「陳腐派」の部類を好む。クウェート料理のセピア色の影を求めて、やってきたのは、ここ――。
「Shatea Alwatyia Restaurant」。タクシーは迷子になって途中で1回交替して、2人目の運転手も一苦労してやっとたどり着いた店は、クウェートの繁華街から外れた荒涼な空き地の一角にある古民家であった。
これ以上ないノスタルジックなレストランだ。場末感たっぷり。というよりも、客はほかに誰もいない。懐旧ムードに浸かるまではただただ心細さで動揺していた。大丈夫だろうか。
それは大丈夫どころか、素晴らしい料理を出してくれたのだった。まず、鶏レバーのザクロソース炒め。これももう絶品中の絶品。フォアグラ顔負けの出来だ。いや、むしろフォアグラの脂濃さがなく、鶏レバーのほうが上等ではないか。キンキンに冷えたウォッカのショットがあれば、グイッと昇天するに間違いなし。
考えちゃだめ。酒のこと。ここはクウェートだ。酒が飲めないので、早速とメインに入る。
蝦カレーは、見た目では全然色気ないが、味は一流。これはいわゆるクウェート流おふくろの味だろう。さらに魚料理。本日は低級魚のZubaidi焼き。ヒラメかマナガツオか、その中間くらいの魚だ。その素朴さと美味、もう言葉が出ない。
クウェートという国は、日本人に馴染み薄い。観光でやってくる人も少ない。だが、この国は湾岸戦争や石油だけではない。セピア色の影がちゃんとあったのだ。