【Wedge】<実録>ベトナム不動産投資は儲かるか?

 先月、ベトナム・ハノイ出張の帰りにホーチミンに私用で立ち寄った。私用とは購入した新築のコンドミニアム物件に不動産仲介業者が借り手を見つけてくれたので、その賃貸契約のための手続だった。

 私は金融投資や不動産投資に夢中になるような人間ではない。「不労所得」派よりも、「額に汗して働く」派だった。といってもいざ投資してみると、決して労せずして利益を手に入れられるものではないとしっかり思い知らされた。

● ホーチミンのプレビルド物件を購入

ホーチミン市2区にある物件の外観

 ベトナムで不動産を買うきっかけは、現地法人を作ってベトナム事業を始めたところにあった。2015年6月、当局から自社のベトナム法人設立の許可が降りた。そのための手続でベトナム出張に行ったら、知り合いの日本人不動産業者から「現地不動産視察ツアー」に誘われた。

 会社も作ったし、これから急成長するとされるベトナムだし、手頃な物件があったら1件くらい買っておいてもいいじゃないかと腹をくくってツアーに参加した。ホーチミン市内の物件を何か所か回るツアーだが、物件といってもプレビルドなので実物がなく、デベロッパーの販売展示場・モデルルームを見学するだけのツアーだった。

 たいそう奇麗な展示場に、これもまた美しいベトナム人女性販売員が流暢な英語を操って熱心に勧誘してくる。彼女たちは基本給がほとんどなく販売歩合制で糧を得ているようで、熱心というよりも必死だった。美女攻勢に負けたわけではないが、購入の意思もあったので即決で購入申込書にサインした。価格も1平米2000ドル弱と手頃。

物件の販売展示場

 事前情報はある程度仕入れていた。2015年7月1日付けでベトナムの「不動産法」が改正され、外国人の物件購入は公式に認められることになる。実際に私が購入申込書にサインした1週間後、法令は約束通り施行された。そこで法的問題はクリアできたわけだ。

 プレビルドとは、建設工事が着手される前の物件を買うことを指す。俗に「青田売買」とも呼ばれている。メリットとしては、安いことと金利不要の分割払いができることで、デメリットは建設工事の遅延やデベロッパーの倒産といった類のリスクを負うことである。

● 「分割払い」と「繰り上げ一括払い」

 2015年8月には正式に売買契約を交わし、月々の分割払いが始まった。

 だが、そこからベトナムならではの面倒なことが度々起きたのだ。2-3回の支払いを海外から送金すると、これからはベトナム国内の銀行口座から送金してほしいという連絡が入る。どうやら政府から「不動産取引は国内限定」という通達があったらしい。私はもともとベトナム国内に銀行口座を持っていたので、海外から一旦自分の口座に送金し、再度国内送金で支払うことになった。

 数か月が経過したところで、ホーチミン出張のついでに建築現場の様子をのぞきに行く。基礎工事が無事終わり、4-5階のところまで建物が立っていた。少々遅れながらも一応計画通りに建設工事が進んでいる。ひとまず安心。

建設中の物件

 しばらくすると、デベロッパーからメールが届く。特別割引付きで分割支払いの残金をまとめて一括払いしませんかという誘いだった。ちょっと待てよ。資金ショートじゃないだろうなと思わず疑った。不安になった私は出張のついでに再度現場に足を運ぶ。高層ビルはにょきにょきと伸びているではないか。工事は順調に進んでいる。ならば一括して払っちゃいましょうか。割引の好条件で総額がだいぶ安くなるからだ。ついに私は繰り上げ一括払いに踏み切る。

 支払いがほぼ終わったので、その後は、ただひたすら物件の竣工と引き渡しを待つのみ。毎月デベロッパーからは欠かさず工事進捗状況の報告メールが写真付きで送られてくる。なんとか大丈夫そうだ。

● 遅れに遅れた引き渡し

 2017年12月末、いよいよ予定された引き渡しの時期がやってきた。そこで何と連絡がピタリと止まった。そして「引き渡しが遅れる」という一報が入る。最終的な内装工事が遅れているというのだ。まあ建物が一応できたので、大きな懸念はない。気長に待つしかない。

 待つこと4か月。2018年4月、ようやく引き渡しの通知がきた。さあ、いよいよだ。しかし、引き渡しの手続をしに現場へ行ってみると、ロビーはまだスケルトン状態だった。内装工事が終わっていない。入居できるような状態ではない。しかし担当者は怪しい笑顔で「ご購入されたユニットは完全に内装が終わったので、引き渡し手続だけは今やってしまいましょう」と勧めてくる。

 冗談じゃありません。一旦鍵を引き取って物件引き渡し確認書にサインしてしまったら、遅延損害請求権を放棄することにもなりかねない。絶対にサインしません。責任者を呼び出して現状確認の覚書を作成し、その場でサインしてもらう。「建物全体は居住できる状態ではないため、デベロッパーの責任によって引き渡しが遅延になっている」という内容の覚書だった。さらに引き渡し予定日は5月中旬ということも書き添えてもらった。

 5月中旬、案の定、やはり引き渡しができない。工事は完全に終わったが、政府からの引き渡し許可がまだ降りていなかった。「政府発行の公式文書がないと、引き渡しのサインはできない」と私が主張し、再度遅延状態確認の文書を送り付ける。こういった往来文書は後日の遅延損害請求のエビデンスになるので、面倒でも都度確保する必要があったのだ。

 7月31日、予定より6か月以上遅れてようやく物件引き渡しの正式手続が行われた。11月、デベロッパーから契約通りの遅延損害金が支払われた。これで売買取引は無事終了。こうして一部始終を見ると、かなり時間や労力などの取引コストがかかっていたことが分かる。不動産投資は決して不労所得ではない。

 引き渡し時の内部最終点検では、ベランダのエアコン室外ユニットに若干の漏水、ドアスコープの取り付け漏れがあったこと以外は大きな問題がなく、予想通りの品質だった。欠陥部分は速やかに修繕してくれたので、概ね満足できる対応だった。

 2018年12月、めでたくも物件の賃貸契約が成約。日系企業の単身赴任の駐在員が入居してくれた。良かった。一件落着。

● これからのベトナム不動産市場

 私が購入したコンドミニアムはホーチミン市の2区・タオディエンにある物件である。一応高級物件の部類であって、豪華なロビーやプール、ジムも完備しており、建物はしっかりしているし、見栄えも悪くない。当該地域は発展途上で、メトロ駅やショッピングモールなどの建設が進み、いずれまとまった商圏になる。

物件のプールエリア

 ただ、ホーチミンをはじめとするベトナムの不動産建設ブームは正直、盛り上がりすぎ。物件の供給過剰が大きな懸念だ。私が2015年7月に行われた外国人の不動産購入解禁の改正法施行と同時に買ったタイミングはまだしも、これから購入するとなると、キャピタルゲインは若干期待できるかもしれないが、全般的に賃貸相場が低迷しているため、インカムゲインはそれほど望めない。

 さらに、前述の通り、不動産売買の取引コスト(時間や労力)もかなりかかる。私の場合は物件の引き渡しが遅れ、一応契約通りの遅延損害金は払われたものの、その間の交渉やら何やらの手間を考えると、やはり取引コストや機会損失があったことは無視できない。

物件のロビー

 いまでも、ほぼ毎日のように、メールボックスにはベトナム不動産物件の最新販売情報が舞い込んでくる。一昔の中国に見られた光景ではあるが、ベトナムもいまやバブルの真っ最中というわけだ。友人からも度々、ベトナムの不動産投資について意見を求められたりする。

 まず、一言で言ってしまえば、いまのベトナムは不動産の作りすぎ。総量的に需要は確かにあることはあるが、中国市場ほどのスケールがないので、供給過剰のリスクはやはり消えない。

 次に、公共交通の開発が遅れている。ホーチミンのメトロ1号線の開通は、当初予定の18年から20年にずれ込んでいる。さらにメトロ2号線はもっとひどい。当初の計画では、16年着工19年完成、20年運行開始の予定だったが、土地収用の難航や設計調整の問題で、完成は24年にずれ込む見込みになっている。

 とはいっても、物件売買の相場は確実に上がっている。私が購入した物件もいまは購入時相場の1.5倍になっているようだ。今後メトロの開通や周辺商圏の整備で、物件相場の上昇はほぼ間違いないだろう。前述したように、インカムよりもキャピタルを狙うのなら、まだ少しチャンスがあるかもしれない。

 広域圏に射程を広げて、東南アジア全域の不動産投資からすれば、どちらかというと、消去法的にベトナムしか残っていないような気がしなくもない。特に最近の米中貿易戦争とTPPの発効によって、ベトナムにはかなり追い風が吹いている。中国からサプライチェーンの移出があるとすれば、アジア地域で唯一の受け皿になりえるのはベトナムだけだ。外資が急増すれば、不動産市場にとってもプラス要因になるだろう。

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