役人と犯罪者の飯の種~証明書大国・中国の実態

 日本の公安委員会から、運転免許証の更新連絡書(葉書)がやってきた。10月日本出張の際に、5年1度の免許証更新になる。日本といえば、運転免許証が身分証明書代わりになるが、さて、中国は?

 「办証」!この「办証」をなくして、中国を語ることができない。要は、証明書を申請、取得すること。われわれ外資企業を1社設立するだけで、各種の証明書やICカードは数十点にも上る。当社のような零細企業でも同じ、会社の金庫の一角は、証明書類で埋まっている。

 会社だけでなく、個人もたくさんの証明書をもつことになる。ある統計によると、中国人は生まれてから死ぬまで、80点以上の証明書をもつことになるそうだ。

 証明書がないと、何もできないのが中国。中国人にとって、一番重要な証明書は、何か?「身分証明書」?違う!「準生証」(出産許可証)だ。これがないと、子供だって勝手に生んじゃいけないので、人間は、合法的に生まれることができないのだ。「準生証」がなく、勝手に生まれた子は、「黒戸口」(ブラック戸籍)になる。戸籍もない、身分証明書もない、学校も行けない。難民だって、難民証くらいはあるんだから・・・

 大量の証明書を製作するコスト、申請取得のための手数料、甚だしい無駄だ。しかも、環境保護の趣旨に反する。アメリカ人なら、ソシアル・セキュリティー・ナンバー(国民年金等社会保険の番号)の一つで、身分証明から銀行ローンの申し込みまで、何でもできてしまう。日本人だって、基本的に運転免許証1枚でほとんどの手続きが出来る。中国は、もう少し証明書を減らしたらどうだといいたくなる。それは勝手に減らすことができない。なぜなら、様々な証明書には、様々な利権が絡んでいる。役人はそれで飯を食っているし、下請けの印刷工場もある・・・

 役人だけではない。

 バス停、路上、公衆便所、学校構内、自転車置き場、公衆電話ボックス、歩道橋、建物の壁や木などなど、中国の街角、いたるところに 「○○××办証」の広告チラシがばら撒かれている。「各種証明書の代理申請」と思いきや、よく見ると、「使用紙質、印刷品質は本物と完全一致を保障」となっているのではないか。偽物証明書製作業者の宣伝なのだ。

 なるほど、雑多な証明書類の存在で、公務員だけでなく、偽物製造業の繁栄にもつながっているわけだ。さすが中国!なぜ、偽物が多い?不要な本物を削減すれば、偽物も出回る余地がなくなるだろう。そんな簡単なことも知らないのか?!

 ご参考まで、中国人、在住外国人の一部の証明書を下記掲示する。

● 家庭・婚姻関連
準生証、初婚初育証、婚検証(婚前身体検査証)、妊娠診断証、出生証、計画生育証、流動人口計画生育証、独生子女(一人っ子)父母光栄証、予防接種証、健康証、結婚証、渉外婚姻証明、新婚培訓証(新婚研修証)、婚育培訓合格証、計画生育保健服務証、上環証明(避妊リング装着証明書)、離婚証、単身証明(独身証)、領養証(養子縁組証)、未婚証、生存証明、火化証(火葬証)、安葬証、死亡証、養老保険証。

● 学校・仕事関連
学生証、畢業証(卒業証書)、学位証、報到証(学籍登録証)、在読証明(学生在籍証明)、貸款証明(貸付証明)、借書証(図書カード)、英語四六級証、上崗証(特定職種就業証)、職業資格証、工作証(従業員証)、従業資格証、執業資格証、教師資格証、社会保険証、下崗証(特定職業引退証)、失業証、離職証明、駕駛証(運転免許証)、外国人就業許可証。

● 身分関連
戶口本(戸籍)、身分証、三僑生証明、軍人証、団員証(共青団員証)、党員証、公務員証、留学回国(帰国)人員証明、老人証、残疾証(身体障害者証)、無犯罪証明、離休証・退休証(退職証)、外国人居留証(現在旅券貼付型)。

● 旅行関連
護照(旅券)、辺境証(国境地帯旅行証)、港澳通行証、出境証件、居住証、暫住証(臨時居住証)、特区辺防証、外出務工証。

● 財産関連
房産証(不動産証)、土地証、房屋他項権証、国有土地使用証、土地使用証・契税証、行駛証(走行証)、養路費証、営運証(営業輸送証)、営業執照(営業許可証)、経営許可証、稅務登記証、衛生許可証、消防許可証、收入証明、貧困証明。 (企業関連除外)

● その他
献血証、游泳証、気象証明、寵物証(ペット飼育許可証)。

 「避妊リング装着証明書」?思わず、吹き出してしまう。中国は、計画生育の国だ。一人っ子政策は今でも廃止されていない。計画生育といえば、「避妊」だ。計画外の子が生まれないよう、行政は、国民のプライバシーであるはずの「子作り」領域にも介入する。

 生んじゃいけない!じゃ、子供出来たらどうするの?中絶。さらに、行政は水際作戦に乗り出す――妊娠するな!「避妊」への行政の介入である。そこで、考案されたのは、「避妊リング装着証明書」。一部の地方では、子供の戸籍は、母親の「避妊リング装着証明書」の有無に係わっているようだ。

 避妊リングの装着で、避妊になるが、コンドームの装着も避妊になる。じゃ、なぜ、「コンドーム装着」じゃダメなのか?計画生育は国策で、国民に協力義務があるにしても、避妊の方式の選択は、国民の権利でプライバシーでもある。なぜ、そこまで強制するのか?呆れるばかりだ。行政の無能さが露呈する。健康上の原因で避妊リングの装着ができない女性もいれば、コンドーム派のカップルだっている……。

 しかし、行政は無理しても「子作り」にまで介入する。なぜ?政策実施力の無さ、無能さ、そして、怠け者、こんなアホな公務員が中国のいたるところにいる。時々刻々に、国民の税金を食いつぶしている。

 中国だけではない。程度に差があるものの、日本も同じだ。冒頭に述べた運転免許証更新のこと、5年やら3年やら一度の更新は何の意味がある?高齢者でもない限り、10年一度でも十分じゃないか。更新時の安全講習なども形式上のものに過ぎず、あの小冊子はただのゴミになり、環境破壊に加担している……。

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