私はこうして会社を辞めました(7)―コンサルタントはクラッチ

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(敬称略)

 「立花さんは早稲田ですよね、法学部?政経?教育?・・・えっ、まさか、大久保キャンパス?」

 私は、大久保キャンパス、早稲田の理工学部建築の出身であった。いまは、まったく建築と無関係な仕事をしているように見えるが、建築学は、コンサルタントの私にとって、欠かせない基礎である。

 コンサルティングには、二種類ある。一種類は、建物を建てる、もう一種類は、建物を取り壊す。たとえば、市場を開拓し、作るのは、「建物を建てる」ことになり、問題を解決し、取り除くのは、「建物を取り壊す」ことになるわけだ。ときどき、古い建物を取り壊して、そこに新しい建物を建てることもある。実は、一番難しいのが「建物の取り壊し」なのだ。

 世の中に、建築家が千万といるが、建物の爆破専門家が絶対的に少ない。建物を取り壊すとき、爆薬を建物のあっちこっちに取り付けるのだが、大変学問のある仕事だ。下手にすると、爆発が強すぎたり、爆心がずれたり、周りの建物に傷つけたりすることもある・・・コンサルティング業でいうと、問題の解決によって新たな問題を引き起こすこともしばしばあるのだ。精確な位置に、適量な爆薬を取り付けるには、まず、建築物を構造を十分に理解しないとできない。

 「建物を建てる」ことも、「建物を取り壊す」ことも、もっとも、大切な基本は、建物の構造をいかに把握することだ。その基本中の基本は、「基礎」、「柱」と「梁」の三要素である。私のコンサルティングは、常に、この三要素に基づいているのだ。

 いまの建築業界では、CADなどを使って、専用ソフトがあって、データを打ち込めば、瞬間に最適結果が出るわけだが、私が建築を学ぶとき、コンピューターが普及していなかったので、力学の計算は、すべて手動で一つ一つやらなければならなかった。自動車でいうと、マニュアル車というわけだ。オートマチック車は、運転上便利は便利だが、マニュアル車の魅力を持ち合わせていない。エンジンとの対話がないからだ。マニュアル車は、クラッチを介して人間が車の心臓であるエンジンと対話する。しかし、オートマチック車は、このクラッチを取り除いたことで、対話機能を退化させた。建築設計現場のCADもそうである。

 車の運転で人間のよく使うツールは、アクセルとブレーキだが、コンサルタントは、クラッチにならなければならない。クラッチは、アクセル、ブレーキ、そして、エンジンと対話しながら、調和を取り、車の走行を安全、迅速なものにするのである。

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